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サイコシリアル[4]

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「涙雫君!」
戯贈が叫んだ。
床に叩き伏せられた僕からじゃ、背後の戯贈は確認出来ない。
けど、分かる。今にも駆け出そうとしているのが。
「こっちに来るな、戯贈」
右腕の痛みで気が狂いそうになる。心配しようとも、手を出すことが出来ない戯贈が急に愛しくなる。助けてくれと叫びたくなる。
それでも、
「まだ終わってないんだよ」
僕は自らの左足の爪先を地面に叩き付けた。
カチッ。
一瞬何かの接点が合わさったような音が鳴った。
「うっ・・・・・・てめぇ!」
僕の背中に馬乗りとなった九紫戌亥が呻き声をあげたと同時に、僕を押さえつける力を緩めた。
その一瞬を狙い僕は九紫戌亥の拘束から逃れた。
「対拘束用暗器『飛刃』・・・・・・九紫からの頂き物だよ」
対拘束用暗器『飛刃』
仕組みはいまいち分からないが、まさに地面に対し、うつ伏せに拘束された時に使用する暗器。爪先を地面に叩きつけると、靴のかかと部から刃渡り十センチ程度の刃が斜め四十五度に飛んでいく暗器らしい。
この靴を履いているおかげで、かかとに鉄板が入っている感覚に襲われ、本当に歩きづらかった。
九紫曰く、慣れらしい。玩具みたいなものですが、要らないのであげます。と言われてせっかくだから履いてきたのだ。
「まさかそんな玩具を用意してるなんてな。くくく、大したもんだよ」
九紫戌亥は声高らかに笑った。
背中に刃が刺さっているとは思わせない程に愉快そうに。
「枝苑の奴も大したもんだ。俺の対刃ベストを数センチだろうと突き破ったんだからな。これに即効性の猛毒でも塗ってりゃ百点満点だったんじゃねー?」
九紫戌亥はそう言いながら、背中に手を回し『飛刃』を引き抜き、放り投げた。
成す術はないのだろうか。
九紫戌亥に一矢報いる術は残されていないのだろうか。思考しろ。臆病者なりの憶測をたてろ。状況を考えろ。
「万事休すってやつだな、涙雫」
ゆらり、と九紫戌亥は脱力的な体勢を取った。
これが九紫戌亥の構えなのだろう。超弩急の殺人技。
「賽は投げられたぜ、涙雫」
九紫戌亥は、右太腿に備え付けられたホルダーから新たなナイフを引き抜き駆け出した。
一切の無駄を省いたスタートダッシュ。
というよりも踏切に近い。一歩で距離を零にする踏切。
体勢は低い。
次に繰り出すのは、斜め上、つまりは首を狙った切り上げか。
九紫戌亥は完璧過ぎる。完璧過ぎるが故に穴はある。
完璧。つまりは定石だ。
僕は、九紫戌亥が踏み切った瞬間に半歩後ろへ下がっていた。
━━ヒュン
という風切り音が辺りを包んだ。
作品名:サイコシリアル[4] 作家名:たし