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サイコシリアル[4]

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「お前とは背負ってる物が違う。重さも想さも違う。比べる価値もねーくらい違う。だから、俺は壊す。この不条理な一族を。不躾な政府を。壊して終わらせる」
「そうやって逃げるのか、九紫戌亥。背負ってる物の重さが違う、想さも違う。ふざけんな! 背負っていただろーが。お前は背負うのをやめたじゃねーか」
「そうだな、涙雫。お前の言っていることは一般的な正論だ。正論過ぎて虫酸が走る。この世はな、正論だけじゃ生きていけねーんだよ」
「そうだよ、戌亥。僕が言ってるのは正論に過ぎない。でもな、言ってしまえば正論なんてのも個人の価値観だ。僕の正論なんてのは独断と偏見の価値観だ」
正論だろうとなんだろうと、ある人が聞けば正論ではないし、ある人が聞けば正論なだけだ。
それでも僕は、
「許せないんだよ。赦せやしない。自分勝手なエゴで人を殺し、人を悲しませようとする奴が。人間だから、とかじゃない。僕が許せないんだ。一族を許せなかったお前のように、今、僕はお前が許せないんだ、戌亥」
僕はその言葉を切り口に動いた。
目の前の円卓テーブルを飛び越え、戌亥へと向けて駆け出した。
「はは、価値観と価値観。概念と概念のぶつかり合いか」
九紫戌亥は、そう言い、僕に向けてナイフを投擲した。
「ッ!」
間一髪。まさにこの言葉通り。僕は、頭一個分、頭部をずらすことでナイフをかわした。
九紫戌亥が投擲してきたナイフは、確実にそういった使い方をしない。
もし、九紫戌亥がモーションなしでナイフを投擲したら、もし投擲用のナイフを使用していたら僕は確実に死んでいた。
九紫戌亥は、ナイフの投擲のモーションを利用し、円卓テーブルを飛び越えた。
無論、殺し遣いの殺人技に敵う術は持ち合わせていない。
けれど、そんな悠長なことは言っていられない。
僕は、体重を乗せた右拳を放った。
案の定、九紫戌亥は僕の右拳を体を半身分ずらすことで、いとも簡単に避けてみせた。
予想通り、というか想定内。僕は、瞬時に体勢を立て直そうとした。
しかし、これが間違いだった。間違いというよりも失態。
九紫戌亥は、僕が想定していた動きとは違う動きを取っていた。
空を切った僕の右腕。つまりは、右手首を鷲掴みにし、左肩に手を置いた。
多分、この一連の流れでコンマ数秒。
いかに思考速度が加速し、僕の時間軸が狂っていようとも、僕自身の体が言うことをきかない。
そして、そのまま九紫戌亥は僕と立ち位置を入れ換えるかのように僕の背中に回った。
つまり、そのまま叩き伏せられ。
ゴキッ!
「ぐああああああああ!」
肩の関節が外された。
そして、肩に置かれていた九紫戌亥の左手が右肘へと移ったのが分かった。
一瞬の躊躇もなく。
バキッ!
「ぐああああああああ!」
肘が折れた。
逆間接をきめられ、躊躇なく逆方向へとへし折られたのだ。僕が、右拳を放ってから三秒程度の出来事だった。
「素人が、遣い屋に挑むのが間違いなんだよ」
九紫戌亥が言った。
作品名:サイコシリアル[4] 作家名:たし