サイコシリアル[4]
「九紫戌亥。お前は、一族の長男、所謂、跡継ぎだったってわけだ。そうすると必然的に組織が『政府に管理されている』という事実を知ることに、知らされることになる。自分に対しての裏切り行為に等しい事実に対し、戌亥、お前は次第に政府、一族もろとも憎むようになった。そして、一族と政府を潰すことを企てた。政府と繋がりがあるという時点で中立という思想なんて無に等しいからな」
「へー。よく勉強してんじゃねーか」
「違う、ただの勘だよ」
「勘だろうがなんだろうが的を得てる時点で勘じゃなくなんだよ」
「まだだよ。まだ仮定の段階だよ。僕には分からない。九紫を殺した理由が分からない。こればっかりはいくら思考しようと繋ぎ合わせようとも分からないんだよ!」
「言ったじゃねーか。一族を潰すってよ。だったら枝苑も殺すのが当然だ。あいつは真実を突き止め、俺を止めようとした。さすがの暗器遣いと言えど、殺し遣いには敵わねーよ」
九紫戌亥は、自らの妹を殺した話をけらけらと飄々と話している。
腐ってる。人間として、同じ種族として腐ってやがる。
「九紫を殺して・・・・・・一族を滅ぼしてどうするんだよ。それじゃ何も始まらない」
」
「別に何も始まらなくたっていい。終わればいいんだよ。一族もろとも政府の連中も全て。枝苑が死んだのは所詮物語の一文に過ぎない出来事だ」
九紫が死んだのは物語の一文。
ふざけるなよ、九紫戌亥。
ここからは僕の完全なる独断と偏見の話だ。
理論も論理も倫理も哲学も何もない。単純な独断と偏見、感情論の話だ。
もう迫りくる感情に耐えられない。むしろ今まで良く耐えたと思う。
ふざけるなよ、九紫戌亥。何を囚われている。ふざけるなよ。
「ふざけるなよ、戌亥。一族に復讐だ? 笑わせてくれるよ本当に。お前は本当に臆病者なんだよ、戌亥。復讐ってのは臆病者がやることなんだよ。臆病で弱い奴がやることなんだ。最強の殺し屋? 最弱の間違いじゃねーのか? 復讐に走ってるお前はな、裏を返せば一番政府に囚われているんだよ!」
僕の隣で戯贈が、やめなさいと制止をして来たがもう止まらない。
僕も弱い。ことごとく自分を棚に上げてものを言っている。
政府? 一族? 関係ない。僕こそが、この僕こそが復讐したくて堪らないんだ。
「お前に理解出来るのか、涙雫。今まで忠誠を誓い、信じてきたもの、信じていたものに裏切られた者の気持ちを。一族に仕え、親父を敬い、一族を誇りに思っていたのに裏を返せば、政府に操られていた。この憎しみが分かるのかよ。親父は気づいていなかったのかもしれねーけど、政府からしたら俺たち九紫一族はただの駒だ。汚れ仕事を処理させるだけの駒だったんだよ」
九紫戌亥は、出会ってからの今までで初めて表情を消した。今まで、けらけらと笑っていたのが嘘だったかのように、むしろこっちの顔が本当の顔のように。
それほどまでに迫力が圧力が違う。
殺気・・・・・・と言えばいいんだろうか。いや、今の九紫戌亥の視線は、その視線で人を屈伏させそうだ。
作品名:サイコシリアル[4] 作家名:たし