サイコシリアル[4]
「何びくついてんだよ。この惨状にか? だったら気にすんな。こいつらは生きる価値のない、生きる価値をなくした屑みてーなもんだからよ」
九紫を殺したことも、この惨状を作り出したことも、この状況で笑っていることも。
僕には許せない。
僕には赦すことが出来ない。
「・・・・・・戌亥。自分が・・・・・・自分がやろうとしてることが分かってんのか」
自然と右手に力が入る。ミシミシと関節が軋み、異音を放ち始めた。
「ダメよ、涙雫。まだ時ではないわ。我慢しなさい。私も殺したくても我慢してるんだから」
隣に立つ戯贈が行った。
その声は確かに震え、戯贈の精神面がいかに不安定かを鮮明に語っていた。
「今、仕掛けたら確実に・・・・・・殺されるわ」
その声は恐怖に震えたわけでもなく、武者震いをしたわけでもなく、憎しみか、はたまた怒りに震えていた。
「お嬢ちゃんは優秀だなー。良く分かっているし、理解もできている。さすが戯贈家の長女と言ったところか。その冷静な所も、表情が無に等しき所もな」
九紫戌亥がそう言い終えた時、戯贈の肩がピクリと、本当に数ミリの感覚で動いたのが分かった。
「これでも申し訳ないと思ってんだぜ。お前の両親を殺しちまったのわよ。でもよ、お前からしたら、両親を殺される理由なんてねーかもしんないけどよ、俺には殺す理由があった。しょうがねーじゃねーか」
「何でよ・・・・・・何で殺されなきゃいけなかったのよ」
「あ? そんなん決まってんだろ。知っちまったんだよ。戯贈一路と戯贈京香はな。でも、反省してんだぜ。お前の目の前で殺しちまったのわ。とんだ失敗だよ、マジで。俺らしくもねーミスだった」
「ふざけないで・・・・・・ふざけるのもいい加減にしなさい。あなたは、自分の殺しを正当化しているだけよ。自分の価値観で概念で理論で殺しているだけ。ある種の自己満足だわ。結果として、あなたは一族を滅ぼすつもりなのでしょうけど。それは愚行というものよ、九紫戌亥。そんなことしたら、『永世中立』が他の組織に潰されるわよ」
「『永世中立』か。笑わせてくれんぜ、マジで。いいか、この世に中立なんてなーんだよ。中立中立ほざいても、結局最後には自分の意思がものを言うんだよ。そんなん中立なんて言えるかよ。中立って言うだけの言葉に囚われてるだけじゃねーか」
確かに九紫戌亥の言うことは一理ある。
中立という言葉に囚われて、中立という言葉をいいように使って、僕たちは生きている。
「それによー、お前ら。『永世中立』が本当に中立を思想として動いてるって思ってんのか? だとしたら大間違いもいい所だ」
と、いうことはやっぱりそうなのだろうか。
この九紫戌亥の言葉は、僕の仮定の裏付けと取ってもいいのだろうか。
「『永世中立』は政府に管理されている、だろ」
僕は、カマをかけた。
一族と政府が繋がっているという、仮定はできていた。その仮定をそれらしく、もっともらしく理由づけた、ただのハッタリだ。
「おいおい・・・・・・随分と確信捉えてるじゃねーか。大間違いじゃなくて大正解だよ、涙雫」
僕、そして九紫戌亥の言葉を聞いた戯贈は驚愕の表情を浮かべていた。
そして、カマをかけた僕も内心物凄く混乱というか動揺をしていた。
まさか、ここまで的確に的を得てしまうとは思わなかったのだ。しかし、だとすると全てが繋がる。仮定ではなくなる。
作品名:サイコシリアル[4] 作家名:たし