サイコシリアル[4]
猿渡警部が外で待機していてくれたので、僕はそのまま九紫のマンションに向かってもらうようにお願いをした。
猿渡警部は『物語が急転したのかい? ま、深くは聞かないけどさ』とか何とか言って、僕の頼みを快く受け入れてくれた。
帰り道なのだから、快くもクソもないと思うのだけれど。
深夜にもほど近い時間帯ということもあり、道路は混雑しておらず、ものの一時間で九紫の住むマンションに着いた。
ま、実際は警察官ともあろうお方が道路交通法をまるっきり無視した速度で車を走らせていた、というのが一番大きい理由なのだが。
「俺は、また待機していた方がいいかい?」
猿渡警部は、車から降りた僕に言った。
「いや、さすがに大丈夫。なんか申し訳ないしね」
ここから僕の家は徒歩四十分も歩けば着くだろうし。
「そうかい。なんか面白いことがあったら聞かせてくれよ、涙雫君」
「面白くない事だったら聞かせてあえれそうだけどな」
「それは勘弁願いたいね」
「とりあえずありがとう。この借りはまたいつか」
「期待しているよ」
猿渡警部はそう言うと、これまた違法改造であろうマフラーを、これでもかというくらいにふかしながら走り去って行った。
マツダのロータリーサウンドが心地いのは、同感だけどさすがに近所迷惑すぎる。
僕は、猿渡警部の車のサウンドをBGMに九紫の部屋へと向かった。
九紫の住むマンションは至って普通のマンションで、見かけが豪勢な訳でもなく、セキュリティが凄いという訳でもない。マンションというよりは、高層のアパートに近い感じだ。
九紫の部屋は六階だけれど、僕は敢えて階段を使用して向かった。別に、若さがあるからとか、日ごろの運動不足を解消しようだとかは考えていない。
ただ、思考する時間と、まとめあげる時間がほしかっただけのことだ。
思考とは時間を忘れさせてくれるのだろう。気がつくと、僕は九紫の部屋の前に来ていた。
「さてさて・・・・・・何から話そうかな」
僕は、ひとり言を呟いてからインターホンを押した。
ピンポーン、と機械的な音が響いたが、中からの反応はない。
作品名:サイコシリアル[4] 作家名:たし