キミへの贈り物
「どうしたのッ?」
聞き慣れた声に顔を上げると智ちゃんがいた。その額には少し汗が滲んでいて息も荒い。学校の方から来たから、たぶん騒ぎの話を誰からか聞いて戻ってきてくれたんだろう。由紀ちゃんの顔を見て、優しく苦笑しながらハンカチで涙を拭いてくれた。
「とりあえず歩きながら話そうか」
智ちゃんの提案に由紀ちゃんが頷き、三人一緒に歩いていく。
「……篠原がアタシと夏美とのケンカの理由を聞いてきたんだ」
「うん」
「それがあんまりしつこかったんで……カッとして本当のこと言っちゃった……」
「本当のことって? どこまで話したの?」
由紀ちゃんの鞄を持ってくれている智ちゃんがいつもの落ち着いた声で質問する。
「アタシが慶ちゃんに会ったこと……夏美に告白しろって言ったこと……全部」
「…………」
智ちゃんは何も言わずに深い溜息をついた。
「言っちゃってから、しまったって思ったんだけど、もうどうしようもなくて……もう取り返しがつかなくて……ごめん……ごめんなさい……」
そう言って、またポロポロと涙を零す。
「大丈夫……大丈夫だよ、由紀ちゃん」
「大丈夫じゃないよッ。夏美は告白しないでいようと思ってたのに……そんなの夏美の自由なのに……アタシが勝手にバラしちゃったんだ……」
「大丈夫だってッ。どうせ今日チョコ渡すつもりだったし」
「……えっ?」
わたしはバッグからラッピングされたチョコを取り出す。
「ほらね」
「……ホントに?」
「うん。あっ、あとさ、由紀ちゃんって今日配るチョコ用意してきた?」
「ううん……そんな気分じゃなかったから……」
それを聞いて、またバッグの中からチョコを取り出す。さっきのよりはちょっと小さいけど、ちゃんとこれもラッピングしている。
「そんなことだろうと思ってチョコを用意してきました〜! まあ、さっきの攻撃でかなり崩れちゃってるけどね」
「さすがナツだね」
智ちゃんが珍しくほめてくれた。
「なんで……?」
「ん?」
「アタシが持ってきてないって……なんで分かったの?」
「分かるよ。友達だもん」
わたしはバッグから次々とチョコを取り出す。
「何人に配るつもりか聞いてなかったからとりあえず五個用意したんだけど足りるかなあ?」
由紀ちゃんは「ちょっと少ない」と言って、やっと笑ってくれた。