キミへの贈り物
日曜の朝は目覚まし時計を必要としなかった。
あれからもわたしと由紀ちゃんの会話はほとんどなくて、勉強会は中止になったんだ。
智ちゃんからノートのコピーを貰って「週末に読んでおいてね」と言われたけど、やっぱり試験まで一週間あると思うとあんまり勉強をする気にはなれない。
とりあえず朝ごはんを食べた後、バレンタインチョコの材料を買いに近所のスーパーへ行った。
今回はチョコトリュフにしよう。お父さんは甘いもの好きというわけじゃないのでビターチョコを買う。
細かく砕いたチョコを温めた生クリームと隠し味のラム酒と混ぜて冷蔵庫で冷やす。エアインチョコにしたいので途中で何度か冷蔵庫から出して泡立て器ですり混ぜる。最後に小さなボール状に丸めてココアの粉の上で転がす。
これでお父さんへのチョコは完成。ラッピング用の袋とリボンも用意してある。
でも、まだ材料のチョコはたくさん残ってる。まだまだバレンタインチョコは作れる。
使わなければ自分が食べればいいんだと、わたしは作業を再開した。
月曜の朝はいつにも増して寒い。今にも雪が降ってきそうだ。本当に春なんか来るのかと疑ってしまう。
わたしは珍しくマフラーを巻いて家を出た。
陸上部のプライドを見せて登校中の学生達を追い抜いていき、もうすぐ校舎が見えるという時、前方に小さな人だかりがあるのに気づいた。どうやら男子と女子が喧嘩しているらしい。ついこの間の自分を思い出してちょっと恥ずかしくなる。無視して通り過ぎようと思ったけど、その女の子の声を聞いて顔を見たらそういうわけにはいかなくなった。
「由紀ちゃん?!」
そこにいたのは由紀ちゃんだった。そして、その前に立っているのは篠原圭介。
由紀ちゃんの目に涙が浮かんでいるのに気づいた瞬間、駆け寄ったわたしは持っていたスポーツバッグで篠原の頭を思いっきり叩いていた。
「何してんだお前ッ!」
「いってぇ〜、フルパワーで叩くんじゃねえよ」
篠原がそんなに痛そうもない顔でわたしを見る。
「夏美……違う……」
「由紀ちゃんッ」
フラついて倒れそうな身体を抱き止める。頭をさすりながら篠原が去っていくのは無視した。
「大丈夫?」
一緒にしゃがみ込んで、その泣き顔が他の人に見られないように向きを変える。
「ごめん……ごめん、夏美……」
「ううん……わたしが悪いんだよ。ごめんね」
「違う……違うの……」
「えっ……?」
「ごめん……アタシ、篠原に言っちゃった……」