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キミへの贈り物

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 昼休みの時間はもうすぐ終わりだから、ほとんどのクラスメイトが教室に戻っていてガヤガヤと騒がしい。
 でも、その声は自分とは別世界のものみたいで、すごく遠くに聞こえていた。
 頬杖をついて窓の外を眺めている由紀ちゃんには近づかずにわたしは真っすぐ自分の席へと向かう。


 結局、智ちゃんがふたりの間を行ったり来たりしたけれども、わたし達が会話することはなかった。
 いつも由紀ちゃんの前でどんな笑顔をしていたのかがすっかり分からなくなっていた。

「お前ら喧嘩してんの?」
 授業が終わって部活に行こうとしていると、いつの間にか近寄っていた篠原が唐突に聞いてきた。帰宅部の由紀ちゃんはもう帰っている。
「べつに……関係ないでしょ」
 わたしは顔を背けたまま答える。
「お前、学食でなんか叫んでたらしいじゃんか」
「だからッ、アンタには関係ないんだよ!」
 今度は教室でクラスメイト達の注目を浴びてしまった。
「篠原くん、部活遅れるんじゃない?」
 わたしの前に立ってくれた智ちゃんが篠原を見据える。
「……らしくねーぞ。さっさと謝っちまえよ」
「…………」
 無言のわたしを少しの間見ていた篠原がそれ以上は何も言わずに離れていく。
 いつもと違う背中を見ていたら、わたしはバレンタインが嫌いになった。


 部活が終わって家に着いた頃には、もう空はすっかり暗くなっていた。
 お母さんに「ただいま」と挨拶してから二階の部屋で着替えて、ベッドの上にゴロンと転がる。
 今日はいろいろと疲れたな。由紀ちゃんや篠原だけじゃなくて、部活でもちょっと口論しちゃったし。
 しばらく天井を眺めてから起き上がって引き出しを開ける。奥の方に入っているのは青地に白のラインが入ったハンカチ。中二のホワイトデーに篠原がくれたものだ。チロルチョコの由紀ちゃんも別柄のハンカチを貰ってた。
 たぶんアイツなりに頭をひねってシャレたお返しを考えたんだろう。贈り物のハンカチが”別れ”を意味するなんて知ってるわけないよね。
 久し振りに広げてみる。男の子でも使えそうなデザインだけど嫌いじゃない。
  

 お母さんから夕飯ができたって呼ばれた後もしばらく窓の外を眺めていた。
(あっ……ッ) 
 いつも通りわたしの家の前の夜道を篠原がランニングしている。
 来週も試験勉強そっちのけで自主トレしてるんだろうな。

 その姿が見えなくなるまで、わたしはカーテンを閉めれなかった。

作品名:キミへの贈り物 作家名:大橋零人