キミへの贈り物
「次の日曜日は勉強会をやるよ」
突然、わたしと由紀ちゃんと一緒にお昼を食べていたクラスメイトの智ちゃんがおごそかに宣言した。
眼鏡ッ娘の王道イメージを裏切らず、浅見智香ちゃんは学業優秀で運動音痴。仲良し三人組のブレーン役だ。
「ええ〜ッ?! テストは再来週からなんだし、まだ勉強はいいじゃん」
由紀ちゃんがサンドイッチをパクつきながら不満そうな声を上げた。
「遅すぎるくらいだよ、ユキの頭じゃ」
バッサリなお言葉に由紀ちゃんは「う〜」と唸り、わたしは苦笑した。ふたりとも成績は後ろから数えた方が遥かに早かったからなんにも反論できない。これまでの中間試験や期末試験でも智ちゃんにはずいぶん助けられてきたんだ。
「日曜は部活もないでしょ?」
智ちゃんの視線がわたしの方に向けられる。
「うん。日曜は休みだよ」
「じゃあ決まりだね。場所はナツの家にしよう。朝九時に教科書と筆記用具持参で集合。テスト範囲の確認と来週の勉強スケジュールを決めた後に暗記ノートを作るから丸一日掛かるよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ〜。月曜の準備はどうすんだよ?!」
由紀ちゃんが紙パックのジュースを振り回しながら抗議する。
「月曜に何かあるの?」
「月曜はバレンタインじゃんかよ〜! チョコの準備とかいろいろあるでしょ〜」
「そんなの土曜までに準備しておけばいいでしょ。だいたいユキには渡す相手がいないんじゃないの?」
由紀ちゃんは夏休みの間にクラスメイトの谷崎と付き合うようになったんだけど、二学期のうちにスピード破局していた。その後、誰かが好きとかいう話は聞いていない。
「だから今回は目ぼしい相手に配って反応を見るんだよッ。智みたいに余裕かましてらんないの!」
これはわたし達だけの秘密だけど、智ちゃんは中学の頃から大学生と付き合ってる。前にプリクラ写真で見たデート中の姿はいつもの真面目スタイルと全然違くてびっくりした。
「ああ、でも篠原には絶対あげないから大丈夫だよ」
由紀ちゃんはわたしの方を見ている。
「は?」
「だからさあ、夏美の邪魔はしないってことッ。まあ、もともと興味無いしねえ。アイツの精神年齢って小学生レベルだし」
「それはナツに失礼でしょ」
「ちょっと何言ってんの?! わたしはチョコなんて誰にも渡さないよ」
「夏美はさあ、もっと素直になった方がいいって。そんなこと言ってると、あっという間に高校生活終わっちゃうよ」
「だって、バレンタインなんて興味ないんだよ。もう中学の時みたいに約束なんかしないからねッ」
「アタシと約束なんてしなくていいよ。今度は夏美が自分で決めなくちゃ」
「もう決めてるよッ。わたしはチョコなんて渡さない。特にアイツになんか絶対やらない」
「ダメだよ」
「えっ……?」
その眼差しがいつの間にか真剣なものに変わっていることに気づく。
「夏美は篠原のことが好きなんだから」