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キミへの贈り物

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 わたしの前で走り出した先輩が派手な音を立ててバーを落とす。戻ってくる姿を視界に入れないようにしながら呼吸を整えて走り出し、いつも通りクリアした。
 
 この陸上部でわたしより高く跳べる人はいない。それが県大会レベルではごく平凡な記録であっても、入部してから3センチしか更新されていなくても、ここでは主力選手として期待されている。
 それはプレッシャーになっていたけど、自分の能力を過信していた中学時代の方がもっと強く感じていたように思う。今は記録会の前夜に眠れなくなるようなことはなくなった。

「努力しているのは分かっているが、お前には貪欲さが足りない」

 そんなことを顧問の先生から何度か言われた。
 確かに練習でのわたしは自分の跳べる高さしか跳ぼうとしなかった。跳躍の練習は段々と高さを上げていくので跳べる可能性がない高さになった人は別の練習に移っていく。最後に残るのはいつもわたしだったから、ひとりになったら一回だけ高さを上げてそれで終わりにしていたんだ。
 今よりも何センチか高く跳ぶことにどんな意味があるんだろうなんて思ってしまう時もある。たとえ世界新記録を跳んだって空の雲に触れることなんかできないのに。

 軽くストレッチをしながら向こうに見えるサッカー部の練習を眺める。
 小学生の頃は男子と一緒によくサッカーをしていた。高学年になると「女はダメ」とか言う子もいたけど、篠原が「コイツはお前らより上手い」と言って仲間に入れてくれた。 
 本当は中学でも篠原と一緒にサッカーをしたかった。だけど、もちろんサッカー部に選手としては入れなかったし、女子サッカー部なんていうのも無かった。
 陸上部に入部したのは、”仕方なく”だったんだ。

 でも、陸上を続けてきたことに後悔はしていない。走り高跳びは自分に合っていると思うし、跳んでる時の快感はちょっと他では味わえない。
 来週は学年末試験前で部活ができないから、今週中にいいイメージを作っておきたい。
「先輩、今日も後で片付け手伝ってもらっていいですか?」
 他の部員がクールダウンの軽運動を始めた頃、マネージャーに声をかける。
「ん、ああ……」
 いつもはすぐに「いいよ」と言ってくれる先輩が少し口籠っていた。
「あ、すみません。今日は都合悪いですか?」
「いや、部室で作業があるからいいんだけど……」
 ちょっと周囲を気にしたように近寄ってきて小声になる。
「最近、部活後の個人練習に対して陰口をたたく連中がいるらしいんだよ」
 日頃からわたしが特別扱いを受けていると言っている人達がいることは知っていた。
「先輩に迷惑が掛かりますか?」
「それは大丈夫。気にしなくていい」
「それならお願いします」
 お辞儀した頭を上げると先輩は微笑んで「分かった」と言ってくれた。

 誰にも負けたくないという気持ちはある。
 特に強豪のサッカー部でレギュラーを目指して馬鹿みたいに頑張っているアイツには負けたくないんだ。

作品名:キミへの贈り物 作家名:大橋零人