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キミへの贈り物

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キミへの贈り物



 朝練が終わってから教室の扉を開けると、中で乱れ飛んでいる声が溢れ出てきた。
 四方八方からの「おはようッ!」っていう元気に負けないように挨拶を返しながら自分の席へと向かう。
 途中で誰も座っていない席が視界の隅に入った時、後ろから肩をポンと叩かれた。
「篠原はまだ来てないみたいだねえ」
 振り返ると、中学からの親友である由紀ちゃんがニヤニヤしている。
「なんで? なんかアイツに用があんの?」
「いやいや、夏美が気にしてるみたいだったからさあ」
「え? べつに気にしてないけど」
 サッカー部も朝練だったから、もうすぐ教室に来ることは知っている。
「だって、もうすぐバレンタインじゃん」
「?」
 ますます意味が分からない。

 バレンタインはわたしにとってあんまり関心のない行事。
 お父さんには毎年チョコをあげてるけど、同年代の男子にあげようとは思わない。たとえ義理チョコであったとしても。
 小学生の時なんかは男の子とばっかり遊んでいて”異性”という意識が全然なかった。中学の制服を着るまではスカートだってほとんど無縁の存在だったんだ。
 それでも一度だけ男子にチョコをあげたことがある。目の前にいる西村由紀子ちゃんと初めて同じクラスになった中二の時。なんだか分からないうちに『バレンタインには必ずクラスの誰かにチョコをあげる』という約束をさせられていた。結局、由紀ちゃんはクラスの男子全員にチロルチョコを配ったんだけど、わたしは幼稚園からの友達だった篠原圭介に初めての手作りチョコをあげた。もちろん本命チョコってわけじゃない。好きとか嫌いとかいう感情以前に、篠原には他に好きな女の子がいるってことを知っていたから。
 でも、チョコを受け取った時のアイツの言葉は忘れない。

「ああ、そっか。お前も女だったんだな」

 その時は笑いながら蹴っ飛ばしたけど、本当はかなりショックだった。だから、わたしにとっては消しゴムで消してしまいたい出来事なんだ。
 ショートだった髪を伸ばし始めたのもこの頃からだったな。でも、走り高跳びをするにはやっぱり短い方がいいので、ポニーテールにしていても陸上部の先輩からは「調子に乗ってる」とか言われてるらしい。


 由紀ちゃんとの会話に高校からの親友である智ちゃんや他のクラスメイトも交じってきてワイワイと話していると、諸悪の根源が教室に入ってきた。
 高校に入ってから身長はかなり伸びたけど、顔つきは中学の頃からあんまり変わっていないように思う。いや、小学校の時ともほとんど同じかも。無造作な短髪はずっと変わってないな。
「オッス!」
「…………」
 その呑気な笑顔を見ていたらちょっと腹が立ってきて、挨拶代わりにまた蹴っ飛ばしてやった。

作品名:キミへの贈り物 作家名:大橋零人