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キミへの贈り物

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 今日から部活はお休みなので授業が終わればみんな足早に帰っていく。いつもの学校とは少し違う感じ。でも、日直のわたしは先生に用事を頼まれていた。由紀ちゃん達は「待ってるよ」と言ってくれたけど、先生が「用のないやつは早く帰れ」ってうるさいから先に帰ってもらった。どうせテスト対策の勉強会でまた後で会うことになっているんだ。
 その用事はつまんなくて面倒だった。テスト前にやらせるようなことじゃなかった。もうひとりの日直と一緒にブツブツ文句を言いながら作業を終えて、窓の外を見たら空はもう暗くなり始めていた。 
 
 バッグを肩にかけて校庭を歩きながら由紀ちゃんと智ちゃんにメールする。最初にちょっと愚痴っぽいことを書いて、20分後くらいには家に帰れるって連絡した。
 携帯を閉じて校門を出たら、わたしの足が止まる。

 そこには、ひとりの女の子が立っていた。
 ウチの学校とは違う制服。長い黒髪と綺麗な顔立ち。
 ぼんやりと揺れていた瞳がわたしの姿を捉え、驚きを含んだ視線が交り合う。
「慶ちゃん……だよね?」
 その少女は、間違いなく寺崎慶子ちゃんだった。

「うん……久し振り」
 微かに歪んだ口元は、たぶん微笑みだろう。
「本当に久し振りだよねえ。ちょっとビックリしちゃった」
 慶ちゃんは相変わらず綺麗だ。ううん、中学の頃よりもっと美人になっている気がする。
 久し振りに中学の友達に会えて嬉しい。そう思った。それだけを思った。
「ウチの学校に何か用? 誰か待ってるの?」
 話の流れで、ついそんなことを聞いてしまう。
「え?……あの……そうじゃなくて……えっと……」
 動揺したように慶ちゃんが言葉を濁して俯く。中学時代はいつもクールで毅然としているイメージだったから珍しい姿だ。あの頃とは少し変わっているのかも知れない。それはわたしも由紀ちゃんも篠原も、みんなそうなんだろう。
 それとも、アイツだけは慶ちゃんにこんな一面があることを知っていたのかな。
「まあ、いいや。また今度一緒に遊ぼうねッ」
 わたしは精一杯の笑顔で手を振りながら歩き出す。
 慶ちゃんは手を振ってはくれなかったけど、ずっと静かにわたしを見つめ続けていた。


 もう振り返っても慶ちゃんの姿は見えない。坂道の途中で立ち止まって、ずっと握り締めていた携帯を開く。
 慶ちゃんがあそこにいた理由をわたしは分かっている。篠原がとっくに帰宅していることも知っている。

『ウチの学校の前に寺崎さんが立っているよ』

 そんな文章を打って、それを少しの間見つめた後、アイツに送信した。
 携帯を閉じて歩き出そうとしたら、メール受信のメロディが鳴る。

『だから?』

 それがアイツからの返信。
 ちょっとイラッとして(もう知るかッ)とも思ったけど、中学の頃を思い出して心を落ち着かせる。
 中二のバレンタインの後、アイツが話しかけても慶ちゃんはずっと冷たかった。その前からクールだったけれど、もっと残酷な感じだった。それでも最後までアイツはクラス委員として慶ちゃんをサポートし続けた。だけど、やっぱり内心は傷ついていたんだと思う。
 きっと篠原も怖いんだ。これ以上傷ついて、慶ちゃんのことを嫌いになりたくないんだ。

『たぶん寺崎さんは篠原を待ってる』

 そんなメールを送って、わたしは携帯の電源を切った。

作品名:キミへの贈り物 作家名:大橋零人