キミへの贈り物
そして、昼休み。
由紀ちゃんと智ちゃんに明るく送り出され、わたしは篠原を連れて校舎裏に来ていた。
よく考えたらこんな日にこんな場所だと他にも同じ目的の人達がいてもおかしくなかったけど、運がいいのかわたしのセンスが古いのか誰ひとりいなかった。
胸に沁み込んでくるような冷たい空気に身体を震わせて、その理由を知る。
立ち止まって向かい合うと、わたしはスカートのポケットに突っ込んでいたチョコ袋を取り出した。
「コレ、甘さ控えめだから」
「…………」
しばらくそれを眺めていた篠原がゆっくりと受け取って袋を開ける。
「グチャグチャだな」
「うん。あのバッグに入ってたからね」
「ああ、そっか」
ちょっと笑って逆さにした袋から中身を口に入れていく。
この場で食べるとは思っていなかったんだけど、わたしの目の前でチョコはなくなっていた。
「旨いな」
「…………」
「前よりも旨い」
中学の時のチョコの味なんて覚えているわけないのに、そんなことを言う。
「篠原」
「ん?」
「これは義理チョコじゃないよ」
「…………」
それは、どれくらいの沈黙だったんだろう。
次の言葉が聞こえるまで、わたしは少しだけ甘い夢を見ていた。
お弁当がある篠原は教室に戻り、わたしは親友が待っている学食へ向かう。
ふたりとも「どうだった?」なんて聞かなかったから、わたしも何も言わなかった。
由紀ちゃんが「テストが終わったらどこか遊びに行こうよ」と言って、その話で盛り上がった。
食べる暇がないくらい、他のことを考える暇がないくらい、ずっと話し続けていた。