神社奇譚 0-2 グレムリン
次の日曜日に氏子役員が集まってきた。
改めて明るいところでみると、賽銭箱の鋸で斬りこまれた跡が痛々しい。
元々の材料が頑丈で分厚いものであったので、深く斬りこまれていても
全く問題が無いほどのつくりに、改めて驚かされるところではあるが
「これよぉ、パテで埋めてさ、ペンキ塗り替えるしかないだろ」
ということで、ホームセンターで材料を揃えて
鑢を掛けて下地剤を丁寧に塗りこんで
ペンキを塗りたてた。
「ハハハ、我ながら上手く塗れたわい!」
と、自画自賛しながら。
役員会の会長は街の電気屋を呼び出して、
監視カメラとかの話を始めていた。
まぁ、近く火災報知機設置の件もあったんで
そちらの話も進んでいたこともあって。
小型のビデオカメラとかパソコン一台で制御できるとか
なんだか神社とは・・かなり懸け離れてないか?な話題ばかりで。
いやところが。
神社とか仏閣というのは
御神体なり仏像なりといったものがあるわけで
さらに建物として古いものが多いわけで
火災に限らず、地震による倒壊などのリスクは以上に高い。
ということもあって、それなりの保険をかけたり
設備をしたりという一面もある。
「へぇ意外と簡単に・・安く出来るもんなんだな。」
ホームセキュリティのようなシステムを取り付ける算段を
検討し始めた会長たちを尻目に。
下々の私らは・・。
「けど、ガキの頃、とりもちを枝の先につけてさ・・」
「ハハハ、よくやったよな。」
と少年時代のいたずら話に花を咲かせる。
「釣り糸にね、大きめにセロテープをね貼り付けるんですよ。」とか。
「マジックハンドってあったじゃない、アレをさ改造してさ。」とか。
過去の悪事の告白大会となり、盛り上がっていた。
だが、今回の賽銭箱の件は、それほど生易しい件ではない。
「やっぱりよぉ、散歩がてらでいいからよ。
お宮をさ、もっと、見回ったほうがいいと思うんだよ。」
「定期的にか?」
「いやむしろ不定期なほうがいいかもなぁ」
すると会長が、「宮司さんに連絡したんだがよォ。」
皆、会長のほうに目を向ける。
あの宮司、ホームレスを追い出すときも、かなり強引なことをしたからな。
いや神様が鎮座するところになにごとか!って
そういう言い分も確かなんだけどな。
という何事か、起こるのか?という変な期待感もあって。
「もしさ、そういう場面に出くわしたらさ。
そういう場面って、わかるよね。
賽銭泥棒に出くわした・・ってときだよ。
なかに変なヤツもいるかもしれないじゃない。
逆切れされてさ、襲われても合わないじゃないの。
だから、くれぐれも身の安全を守って、警察に通報してください、と。」
役員一同、顔を見合わせて。
「そうだよなぁ・・怪我しても割りあわないしなぁ。」
「しかし今の世の中、変なヤツ多いよなぁ」
少々、腰が引けたような空気の中、散会した。
作品名:神社奇譚 0-2 グレムリン 作家名:平岩隆