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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1

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 人間は一度成功すると、その成功体験から逃れられなくなる。それをすればうまく行く。それを作れば安全牌。ある種の信仰、であろう。
 「……アネキ、この作品、一番売れて、何本ぐらい出たん?」
 「二番目の作品で十万本ちょっとってことだけれど」
 「それって何時の話?」
 「今から八年前、ね」
 「八年か……」
 丸山花世はうなって、しばし沈黙する。
 「最初の一作目が出たのが九年前」
 「随分と……息の長い作品だなあ」
 丸山花世はため息をついて、それからアネキ分を見やった。
 「……アネキ、この作品にも、神様ってついてんのかな?」
 古来日本には、長く使われた『もの』には魂が宿ると言われている。だからこそ使われなくなった品々を供養する風習が起こるのだ。針供養などはその最たる例。作品も同じ。長く愛された作品には女神が宿り、精霊がつく。あるいは、長く支持される作品のキャラは、キャラ自体が意思を持ち、時に作品を作る人間を指定までしてくることがある――とは、これは、大井弘子の説であり、妹分もその説を大いに支持しているのだ。。
 「ルパン三世とか……絶対、あれって神様ついてるよね。ってか、ルパン自身が二次元の存在のくせに一個の意思を持っているって言うか……」
 丸山花世は言った。
 「前さ、金曜ロードショーで『カリオストロの城』見たけど、あれって、絶対ルパンたちが宮崎監督をご指名でやらせてるよね」
 それは普通の人間が思いつかない感覚。生意気なだけの小娘は、しかし、作品のことに関しては非常に素直であるのだ。
 「ルパンや次元が、宮崎監督に作ってもらいたいって思ってて、それで、カリオストロの城ができた……」
 「そうね」
 大井弘子は頷いた。誰も理解しない感覚。姉妹にだけ理解できる感覚、である。
 「監督を選んだのは製作会社のお偉いだろうけれど……でも、やっばり選んだのはルパンなんだよなー。不二子とか……」
 キャラが呼ぶ。スケジュールを決めたのはもちろん会社であり、会社の役員。けれど、そうは言っても、抜擢しようとした監督が事故にあったり、病気になったり、あるいはスケジュールの調整がつかなかったりということは往々にしてあること。めぐり合わせ。星回り。かくして、カリオストロの城はルパン三世の思惑通りに宮崎監督のものとなった。