むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1
大井弘子にとっては悪くない話。だがというのに顔色が冴えないのは……何故?
「ギャラが少ないとか?」
「そうではないの」
それでは何をそんなに浮かない顔をしているのか。
「あんまり……風回りがよくないのね、この作品。運命的に」
「運命的に……風回りが良くない、か」
妹分は知っている。風回りがよろしくない。星回りがよろしくない。大井弘子は時々そういうことを言う。それは、作品としての成り立ちそのものが芳しくないということ。ちなみに丸山花世は同じような意味で『スジが悪い』という言葉を使う。
「どんなふうに風回りが悪いのさ?」
丸山花世は訊ね、大井弘子はずばりとこたえた。
「製作会社が一度倒産しているのね」
「そいつは……」
物書きヤクザは無意識に舌を出した。
会社が倒産。それは……作品としては相当におかしなことになっている。
「製作会社……この作品、もともとはキンダーガーデンっていうところが作っていたのね」
「幼稚園……ねえ」
名は体を現す。それは事実。
「エターナルラブは今から十年ぐらい前にキンダーガーデンからプレステ専用のゲームとして発売されて。それで、結構売れて」
「ふーん……ちょっと見せて」
丸山花世はアネキ分から携帯を受け取る。液晶にはアマゾン販売画面が映っている。
「『エターナルラブ』『エターナルラブ2』『エターナルラブ 閉ざされた想い』『エターナルラブ4 過ぎゆく夏』『エターナルラブ5 マイメモリー』……。ふーん。結構出てるね。『エターナルラブ スターダスト』『エターナルラブ 春風の吹く頃』『エターナルラブ カーテンコール』」
丸山花世は納得したように見ている。
「プレステソフト。パソコン用……ああ、なんじゃ、ドリームキャスト用って……私、ドリキャスなんて触ったことないんスけど……」
大井弘子は妹の横顔を眺めている。そこで生意気な小娘は顔をはたと思いついたように言った。
「ってあれ、こっちはドラマCD……」
小娘はちょっとだけ顔を曇らせる。
「最初の作品は……ああ、十年も前の作品なのか。私、小学校入ったぐらいか。なんか、あれだよね。ゼロ戦みたいだよね。どんだけ作れば気が済むんだって感じだよ」
生意気な小娘の発言は当たらずとも遠からず。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1 作家名:黄支亮