むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1
「私は市原たちの努力があれば十万本ぐらい売れるかもしれないと先ほど申し上げました。けれど状況がそんなに甘くないことも理解しています。市原たちは三万本のセールスを目標にしていますが、おそらくは一万五千がめい一杯でしょう。それ以上は伸びない。と、なれば、そこでデッドエンドです。一千万円ちょっとの資本金しかない16CCではそれ以上に息が続きませんから」
「……」
「だとすれば、今のうちに、ちょっとでも作品の名前が生き延びる道を私としては考えておきたいのです。どんなに小さくなってもいい。エターナルラブの名前を残しておきたいのです。実際、プレステのゲームとしては利益が出なくなったとしても、同人ゲームとしてサイズを小さくすれば、細々とではありますが、作品は作り続けることができる。もちろん、豪華な声優は使えなくなりますし、派手な宣伝もできない。でもいいんです。私はゲームを作っているのですから。声優のコレクションアイテムを作っているわけではない。そうやって、生きながらえていれば、もしかしたらまた作品が復活する目も出てくるかもしれない。可能性があれば何でもやってみる。それが私の信条なのです」
三神は言い、そこで小娘は言った。腹を割って全てをさらけ出す相手は聞いていて信頼が出来る。
「三神さんっつったけ……」
「そうです。丸山花世さん」
男には表情は無い。けれど相手の気持は分かる。同じ作り手として共感できる。
「あんた、けっこーハートの熱い人じゃんか。見たところただの猫背のにーちゃんだけれど」
歯に衣着せぬ小娘の言葉に三神は少しだけ表情を緩ませた。
「そうですね」
「ま、そういうことならばやりましょー。だいたい話は飲み込めたし」
丸山花世は言った。決定権は本当は姉にあるのだが、どうせ大井弘子も同じ考えであるのに違いない。
「いいっしょ、アネキ?」
「そうね」
作品は人。人物の交差点こそが作品。多くの人が関わるまさに人生そのもの。その作品をきっかけに天の高みに昇るものがいて、大金を手に入れるものがいる。社内で出世するものもいるだろう。ただ単に生活の糧を手に入れるだけのものもいるし、逆に、作品に携わることで身を誤るものもいる。自らの家庭を破壊させるものがいて、体を壊すものがいる。自分の限界を知り業界を去るものもいる。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1 作家名:黄支亮