むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1
でもない。何の感慨もなければ、何の疑惑もない。なんともすっとぼけた男であるのだ。それはそれで呼び出された側には不安なこと。そして小娘の不安をよそに若者はどんどん話を進めていくのだ。
「さて。お呼び立てして申し訳ありません。今日はお二人に頼みがあります」
時候の挨拶もない。いきなりの本題である。
ちなみに、丸山花世もアネキ分の大井弘子も三神に会うのはこれがはじめて。メールで呼び出して、初対面の相手であるのだ。
「シナリオを書いてください」
「……」
目が点……とはこのことである。
「……えーと……なんつーかトートツだよね……」
さすがの物書きヤクザも呆れている。三神という男は……馬鹿なのではないか?
「出会ってすぐっていうのは……なんつーか、もうちょっと、なんつーかさ、いろいろと相手のことを知ってから仕事の依頼したほーがいーんじゃねーの?」
あまりにも常識の無い相手。丸山花世は他人の非常識には寛大なほうだが、それでも、金が絡む話であれば相手に慎重になることを勧めるぐらいの常識は持ち合わせている。
「蒼のファルコネットはすでにプレイしました」
蒼のファルコネット。蒼ファル。大井弘子の新作同人ゲーム。三神はその作品を知っている。
「火風亭の人とも話をしました」
蒼ファルのメーカーが火風亭。三神はメーカーの担当者とも接触をしている。変な男だが……動きは早いということか。
「蒼ファル。いい作品です。売れるための基準をきちんと満たしています」
男ははっきりと言った。変な男がはっきり言うからこそ信じられることがこの世にはあるのだ。
「売れるための基準?」
丸山花世が鸚鵡返しに尋ね、そこで三神は言った。
「そうです。売れるための基準」
「それ、その基準って一体何よ?」
「Make you want.Sell you need.です」
「何……なんだって?」
ヤクザな娘は身を乗り出して素っ頓狂な声を上げ、三神は日本語で言い直した。
「自分が欲しいものを作れ。自分が必要としているものを売れ……自分が本当に欲しているものを作る。そういうものは売れます。少なくとも、作品を欲している作者がひとつは買いますから。蒼ファルは客などどうでも良くて、自分たちが見たい作品を作っている」
「……」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1 作家名:黄支亮