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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1

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 三神はそのように言い残してどこかに行ってしまい、そこで大井弘子はテーブルについた。妹のほう席には着かずに会議室に張られたポスターを見上げる。
 「B機関報告書……か。聞いたことあんな。スパイかなにかの話だよね。結構硬派なゲーム作ってんだね」
 「そうね……」
 女主人は頷いた。妹は席に着かずに、窓からの景色を眺める。西から東。低く流れる雲が急ぎ足に迫ってくる。
 「こいつはやっぱり雨になるなー アネキ、傘持ってないから、一度イツキに寄ろうと思うんだ。家とは反対の方角だけれど」
 「そうね」
 女主人のほうはカバンからペンを取り出している。古い万年筆。稼業である原稿書きには使われることのない旧時代の筆記用具。だが、大井弘子はその古い遺物を愛用している。
 やがて。去っていったばかりの三神が戻ってくる。トレーにコーヒーの入った紙コップを三つ。あとは砂糖とミルク。
 「すみません。お待たせしました」
 三神はカップをテーブルに置き、窓際の丸山花世はその様子を眺めている。
 ――なんか変な感じのにーちゃんだな。
 ぼんやりした、表情の無い若者。快活さはない。
 「どうぞ」
 猫背の若者はそう言って、丸山花世に席とコーヒーを勧めると自分は窓際の席に座った。
 「うん……」
 生意気な小娘はおとなしくアネキ分の隣に座った。
 「改めまして……三神といいます。三神智仁です」
 若者はそう言って、名刺を出してくる。
 ――ブランセーバー 開発部 三神智仁
 大井弘子がそれに応じる。
 「大井一矢です。こっちは妹の丸山花世です」
 実際には丸山花世は妹ではない。だが、そのことを訂正しない。事実はだいたいあっていればそれでいいというのが、物書きヤクザの信条。それに。血統はともかくとして、丸山花世にとっては大井弘子は精神的な意味で姉。
 「そうですか。三神です」
 三神智仁はそう言って、名刺を丸山花世にも手渡した。
 「ごめん。名刺ないんだ」
 生意気な小娘は言った。
 「分かりました」
 男は特に感慨を持たなかったようである。それどころか、三神は丸山花世の服装や態度についても何も言わなかった。
 ――高校生ですか?
 でもなければ、
 ――あなたの実績は?