むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1
というロゴが入った金属のプレート。
エントランスには小さなテーブルがあり、その上にはインターホン。
――前に仕事をしたグラップラーに比べると、多少は立派か……。
丸山花世は思った。
そして……受付のインターホンを押して来客を伝える必要性はなかった。すでにそこに若い男が一人待っていたからである。
中肉中背の男。眼鏡をかけた若い男。ちょっと猫背なそやつは姉妹に向かってこう言った。
「大井弘子さんと丸山花世さんですね」
表情の乏しい、抑揚の無い声色の持ち主。いい男ではないが、まあ、見られた顔といったところか。
そして姉ではなく、妹がまず口を開いた。
「あんた、誰?」
ヤクザな小娘には社会通念であるとか常識というものはない。そんなものには興味がないのだ。ただ、だからといって丸山花世が単なるアウトローかというとそういうわけでもない。ヤクザな娘にはヤクザの娘だけに通じる理屈があるのだ。たとえばそれは自分にも他人にも嘘をつかないということであったり、率直に物を言うことであったり……空気を読んだ上で、わざと耳の痛いことを言うこともある。それは、人間、財布にいくらあって、借金がいくらで、債権がどれだけあるのかといった現状をはっきり認識しないことには、行動がままならないことを小娘が知っているからである。
「こんにちは。三神といいます」
若い男は軽く頭を下げた。ちょっとぼんやりした表情の男に、丸山花世は内心思っている。
――なんだ、このにーちゃん……大丈夫なのか?
だが。大井弘子は妹のようにさっさと『馬鹿認定』を済ませることがない。相手がどういう人物かは確認をきちんと済ませてから。
「大井一矢です……森田閃人のほうから紹介を賜りました。メールを下さったのは……」
女主人は頭を下げ、三神と名乗った若い男はぼーっとした表情のまま言った。
「はい。私です。とにかくこちらへ……」
若い男はそう言うと、オフィスの中に姉妹を導きいれた。ガラス戸を開いてすぐのところに小さな会議室。会議室にはホワイトボードとテーブル。壁にはブランセーバーの製品であろう、ゲームのポスターが貼ってある。 窓からはつい先ほど物書きヤクザ姉妹が歩いてきた通りが見下ろせる。
「あ、今、コーヒー、持ってきますから。座って待ってください」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1 作家名:黄支亮