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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1

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 儲からない居酒屋などやらなくとも大井一矢のネームバリューがあれば筆一本で生きていけるはず。だというのに大井弘子は店を続けている。体力的にはしんどいと思うのだが、そうするだけの意味があるのか。ヤクザな妹にはそのあたりの必要性についてはよく分からない。
 「行きましょうか」
 大井弘子は言った。
 「ああ、うん」
 権利のホルダー。ブランセーバー本社へ。
 「雨になりそうだね……」
 「そうね」
 「なんかさー。雨の日が多いんだよね。私が人と会うときって……」
 丸山花世は言った。
 そういえば、亡くなった龍川綾二と出会ったときも雨ではなかったか。
 「私もそうね。重要な人と会うときは雨の日が多いかも」
 姉は応じた。
 「雨女の家系なのかね」
 「どうなのかしら……」
 大井弘子は首をかしげたまま曖昧に笑った。考えても答えの出ない質問、ではあるのだが。丸山花世のほうも姉が適当に笑ったことで腹を立てたりしない。ただの世間話、である。
 「ブランセーバーって品川にあったんだ……って、ブランセーバーってどういう意味なん?」
 「ブラン。白。セーバーは刃ってことみたいね」
 「白刃……なんか、剣呑な名前じゃんか」
 「社長さんが居合いをやっているとかいないとか。なんかそんな話を前に聞いたような」
 「ふーん」
 丸山花世はそれほど感銘を受けていない。
 「どうでもいい会社名だね。まあゲームの会社の名前なんて厨っぽいのばっかりだから、しょーがないか」
 生意気な女子高生はアネキ分について歩いていく。階段を下りて高いビルの合間を縫うように縫うように……。
 やがて。二人はとあるオフィスビルの前で立ち止まる。
 白いタイルのビルディング。
 「十階……十二階建て、か……」
 丸山花世は見上げる。そこが目的地。
 「ブランのオフィスはここの四階と五階」
 「……アネキ、来たことあんの?」
 姉は一度も道に迷わなかった。ということは、すでに先方の所在を知っていたのか。
 「いいえ。ただ、ここの近くに知り合いの焼き鳥屋さんがあって。一度、前にそのお店に来たことがあるの」
 「ふーん……」
 そういうことであれば分からない話でもない。
 「行きましょう」
 大井弘子は言い、丸山花世も頷いた。