むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1
「と、いうことで、さっそくだけれど、明日、向こうのスタッフと会うことになるけど、構わない?」
「うん。いいよ。オッケー。その……16CCの市原っていう奴に会うわけね」
丸山花世は適当に言い、そこで大井弘子は首を横に振った。
「いいえ」
「へ? 違うの?」
普通は責任者に会うではないのか。
「16CCに行くのは、あとまわし。それよりもまずは……」
「まずは?」
「ブランセーバーに行きます」
「ブランセーバー? どして?」
製作は16CC。権利のホルダーに出向くのは、何故?
「呼ばれているから」
「……」
それだけの理由。ただそれだけ。けれど。どうも大井弘子には何か考えがある……らしい。
翌日。
時刻は午後三時過ぎ。
品川駅港南口。制服姿の丸山花世の姿がそこにあった。半そでシャツにチェックのスカート。目を転じればオフィスビルの上空を暗い雲が覆っている。僅かな雲間からは青い空が顔を覗かせているのが見える。
そろそろ夏休みが始まる――。
「こいつは……夕立が来るか」
少女は呟いた。残念ながら傘は用意しておらない。雨が降ったら降ったでその時はその時。
「こんな暑い日に授業なんかやんなっつーの……」
と。
「待たせたわね」
小娘の背後で声があった。ジーンズに男物のワイシャツ。長袖のシャツは腕まくり。携えているのは大きな皮のカバン。カバンの中には製作に必要なこまごまとしてものが入ってる。メモ用紙であったり筆記用具であったり、電卓。一方妹分のカバンの中にはほとんど何も入っていない。学業がそれほど人生に役に立たないことを丸山花世は知っているのだ。少なくとも、良い学校を出ている人間が学歴に劣っている人間よりも良い作品を書いているわけではないことを物書きヤクザは経験として理解している。
「店の用意は?」
妹は尋ねた。色白の美人は五時には店を開けねばならない。打ち合わせが出来るとすればそれまでの間、ということになる。
「ああ、仕込みはもう終わらせてきたから」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1 作家名:黄支亮