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しっぽ物語  1.シンデレラ

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 煙が薄まる余韻も与えずに、女はFの身体から、ベッドから降りた。不意にFは、身を上下させる固いスプリングが、無性に哀れに思えた。見捨てられた左手で、ぬくもりを残したままのシーツを撫でた。指の腹が、安っぽく毛玉さえ浮いているように思える白い布の上を滑る度に、胸の鼓動と一拍遅れるリズムで、不安が広がっては、萎む。
「もう一回、スロットに行ってこようかな」
 ベッドサイドの灰皿にマリファナを投げ捨て、女は丸まっていたブラジャーを拾った。肩までの金色の髪では覆い隠すことの出来ない、背中一杯のそばかすが、精神の均衡を更に崩す。分かっていながら、Fは後姿を凝視し続けていた。目を離したのは、すぐ近くに転がっていたズボンを探したときだけだった。
「穴場、知ってる?」
「穴場って?」
「よくコインが出る場所」
 身を起こしたとき見えた素足は、小さい踵と、小さな指をして、異様に平べったい。綺麗だと思った。ブーツで隠してしまうには、勿体無い。
「うちのホテル来るか?」
 ホックをとめ、笑みを貼り付ける。女は振り向いた。眼がガラスのように輝いていた。その途端、Fは確信した。眼の前で閃いた光に身を投げ入れた。息が出来なくなるほど胸が痛んだが、もう付随する感情は何もない。
「うちって?」
「俺の親父が経営してるホテル」
「どこにあるの?」
 今にも駆け寄ってきそうな身体の前に手を突き出し、声を低める。ただその反応のためだけにある苛立ちと興奮で、動悸が治まらない。
「服着ろよ」
女がドレスを頭から被っている間に、Fはサイドボードに鎮座する、安くて重い、金メッキのはげかけたベッドランプを掴んだ。コードが抜けたとき、すぐ近くにラッキーストライクの箱が転がっているのが目に付いた。女の嘘に、決意は煽り立てられる。
「ねえ、なんて名前のホテル?」
「キングダム」
 首を出した女の頭を力いっぱい殴りつけても、乳白色の傘は割れなかった。安いから、分厚く出来ている。飛び散った血が染み付いただけで何の損傷もない。これだって、洗剤と布で簡単に落ちるだろう。