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しっぽ物語  1.シンデレラ

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 額を割られて後ろへ仰け反るように尻餅をついた女は、何が起こったかわからなかったに違いない。流れる血で眼も潰れていたし、考える暇を与えることもなく、Fはもう一度左の側頭部と後頭部の間にランプを振り下ろした。一番力の掛かる場所に女の頭はなく、それでも傘の頂上についていた天使の飾りが傷口を抉り取るほどには良い心地で当たった。そのときやっと、女はぎゃっと悲鳴らしい悲鳴――ただし想像していたよりも野太かったが――をあげ、その場に転がった。
 助けてとしわがれた声で唸った女のドレスは肩のところで止まっており、下着が丸見えだった。ローレグショーツは今はもう、無視できた。確かに嫌いだが、今考えれば我慢できないほどのものではなかったように思える。
「行けよ」
 締まった太腿を蹴飛ばせば、女は見えない目と腕の力だけを頼りに、入り口へ向かって這って行った。芋虫のように身をよじる姿は、数時間前クラブで見たダンスとそれほど変わりないように思えたし、あの時と同じく無言だったことが、好感度を増した。
 また、絨毯を叩くようにして擦るが眼に入った。驚くことに、踵はひび割れていなかった。一体どれだけ垢すりをしているのだろう。見れば見るほど、綺麗だった。
 先回りして、ドアの数歩手前で立ちふさがる。女の手が、今はもう血で無茶苦茶に縺れて固まった金髪の頭がズボンへ触れそうになったので、少し身を引く。
 女が何か言おうとする前に、Fはその場へしゃがみこみ、まだ手の中で奈落の底へ引き落とすような重さを持っているランプを掲げた。
「行くんだろ、“王国”へ」
 ここからは不恰好なじゃがいものような頭しか見えなかったが、後でもう少し女の足を見ようと、Fは考えた。取立て気に入ったわけではない。ただ、素直に綺麗だと思った。こんな感情は久しぶりだった。