夏少年
君の隣に腰を下ろす。まだ太陽に触れていない砂の冷たさを
サンダルを脱いだ足に心地よく感じながら、君の返事を待つ。
横顔。
何度も見つめて、何度も、見惚れた。
ねぇ、僕は、ここに居られることがとてもとても幸せなんだけど。君の、こんなに近くに。
それにほら、この状況だよ。暗い朝の海。静かで、声を出したくなくなるくらい、静かで、綺麗で。
だから、少し、錯覚することを許して欲しいんだ。
2人だけだって。
僕と君だけって。
今だけ、
勘違いさせて。
「去年の体育祭の、綱引きのとき。お前、何してたか覚えてる?」
すぐそばで響く君の声。波の音と混じって、だけど溶け合わずに、掻き消されずに届く。
心地よい音が促すままに、その答えを口にした。
「写真、撮ってた。」
写真部の腕章を光らせ、応援する生徒たちの最前列に陣取って、汗だくになりながら。
「俺ね、そんとき後ろに居たんだ。お前のすぐ後ろ。」
「え?」
「おかげでぜんっぜん見えねぇの。お前超いい位置で
カメラ構えちゃってさ。」
クスクスと、楽しげに笑う君。
顔は見えない。でも分かる。
「メーワクな奴だなーとか思いながら応援してたんだけど、ちらって見た瞬間のお前の顔が、なんかすげー印象残っててさ。」
『忘れられなかった。』
「ホント、すごい集中してるんだけど、でも・・・何て言ったらいいかな、とにかく楽しそうなんだよ。」
君の声が。言葉が。
「何がそんなに楽しいんだよって呆れるくらい、俺が見てるのとは違うモンが見えてるんじゃないかってくらい。そんな顔で撮られてる奴らが、羨ましくなるくらい。」
僕の中に入ってきて、
「それなのにさ、たまに廊下ですれ違うと、お前いっつも笑ってねぇの。あんだけいい顔できるのにもったいねーってずっと思ってた。」
僕の中を熱く満たして、
「もしあの笑顔が、カメラ構えてるとき限定だとしたら、写真ってそんなにいいモンかなって考えたんだよ。魅力ってやつ?知りたくなった。それにね、」
いっそこのまま君でいっぱいになって、
「それに、やっぱもう一回見たかった。お前が笑ったとこ。そんで、俺が腕上げて写真上手くなったら、俺のカメラで撮って見せてやりたかった。・・・お前、こんな顔で笑うんだよ、って。」
その苦しさで死んでしまってもいいなんて、
「な?お前のせいだろ。」
僕はそんなことを、
「俺が今、ここに居んの。」
考えていた。