夏少年
「だから、別に、お前悪くねぇって。」
君は嫌がらせをしてるの?
「いや、だから僕は、」
「教えてくれたマネの子がね、」
ワザとだろうか。僕の言葉を遮るように、被せるように、君は少し声を大きくした。
「その子が、言ったんだよ。お前がすごくいい顔して撮ってるんだって。嬉しそうに目ぇキラキラさせて、もうめっちゃ幸せですって表情でカメラ構えてるんだって。そういう言い方をしたの。」
「えっと・・・・・・いや、」
「初めは何なんだろうって不審がってたらしいんだけど、悪い人じゃなさそうだからまぁいっかって。二週間くらい前に聞かされた。」
そんでね、と、君は間髪を容れずに続ける。僕が口を挟めないようにしているのが明らかだった。
「そんで、俺それ聞いて、すげぇ嬉しかったんだ。マジメに。……あのさ、何を気にしてんのか全然分かんねぇけど、隠し撮りとか、ほんと、今お前に言われて、『あーそういう見方もあるか』とか思ったくらいだから。マジで。謝んなくていいから。」
ブツン、ブツン、と、細かく千切れた言葉。さっきはサラサラと流れていたのに、今の君は何だかとても必死で、混乱する。
言葉が見つからなくて黙っている僕を、君はチラリと横目に見遣って、
ふぅと息を吐いた。
「誰にも、話したことないんだけどさ、」
その言葉と一緒に砂浜に座り込む。
あぐらをかいて、静かな声でゆっくりと紡がれた、言葉。
「俺、お前が居るから、ここ入った。写真部。」
静寂は、波が埋める。
君の声が、柔らかく混ざる。
「正直言って、写真とか興味無かったし。てか中学からずっとテニス
やってきたから、そっちに集中したくて。兼部なんてする気も無かったんだよ。」
僕の顔を見ることはしない。
右膝に乗せたカメラの上にそっと手を置いて、それに語りかけるように
視線を向ける。
一つ一つの仕草から滲むのは、きっと、愛情。
「けど、今はもうこれ以上大事なモン無いってくらいこのカメラが大事で......
もっと部室に顔出したいし、もっと写真撮ってたい。思いっきりハマってる。」
クスッと零れた小さな笑い。
ぜーんぶお前のせい、と、どこか嬉しそうな呟き。
「どうして・・・?」
問うと、不意に顔を上げた君は前髪越しに僕を見上げ、座れば?と笑う。
「もう少しかかると思うから。」
そう言って指差す水平線は、色を変えていた。
濃紺に瞬いていた星たちが、確実に減っていく。
夜を司っていたそれらを労わるような緩やかさで、白く霞んでいく空。
雲は無い。
赤色が、待ち遠しい。