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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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「こんなかわいい子が鬼退治をしたのぉ?」
「すご〜い!」
 ペット扱いというより、もはや珍獣扱いだった。
 ポチは少し頬を赤らめながら娘たちから逃げようとしている。
「ボクは……それよりも温羅の姐御さんに……うわぁ、お尻さわったの誰? だから、温羅の姐御さんに首輪を外してもらわないと、いやぁっ、変なところ触られたよぁ。だ〜か〜ら〜、首輪を外してもらわないと、ずっとポチって名前で呼ばれ……わぁっ!」
「ボク、ポチくんっていうの? かわいい〜!」
 ポチは娘たちにハグされて拉致されていってしまった。大人の階段を昇っちゃわないか心配だ。
 鼻の下を伸ばした男たちが桃の近くにも寄ってくるが、桃の魔獣の眼で睨まれてちょっぴりチビって一目散に逃げてしまう。
 モテないのは猿助だけなのだろうか?
「きゃ〜っ痴漢!」
 またどこかで若い娘の悲鳴がした。
 桃は呆れたように呟く。
「ったくサルの野郎は女と見れば……」
 今さっき叫んだ娘が髪の毛を振り乱して桃のところまで逃げてきた。
「勇者さま、助けてください。しつこい男の人がいるんです!」
「しょうがないサルだねぇ」
 仕方なく桃は立ち上がり、娘を追ってきたその男に目をやったのだが、拍子抜けしたように目を丸くした。
「おっ? サルじゃないのかい?」
 そこに立っていたのは白髭を蓄えたハゲ爺だった。見るからにエロそうな顔して、鼻の下なんか指三本入りそうなくらい伸ばしている。
 猿助ではなかったが、桃は構わずハゲ頭を引っぱたいた。
「クソジジイ、いい年こいて女のケツばっかり追ってるんじゃないよ」
「おおっ、こんなところにもナイスバディなねーちゃんがおったのか。よしよし、ワシが胸を揉んでやろう」
 そう言って爆乳に手を伸ばそうとしたハゲ爺を桃はタコ殴りにした。
「気安く触るんじゃないよハゲ!」
 殴る蹴るされたハゲ爺は、なんと自ら背負っていた亀の甲羅の中に隠れてしまった。
 そして、甲羅の中からうめき声を発した。
「気の荒い娘じゃのぉ、ワシを誰だと思っておるんだ。胸は揉むほどデカくなることを知らんのか」
「出てこいハゲ!」
 桃は甲羅を蹴り飛ばすがビクともしない。
「ふぉふぉふぉ、この甲羅は核爆弾の衝撃にも耐えられる仕様じゃ。元はワシを汚い罠にハメた亀を殺して喰ってやった戦利品なのじゃが、それをジパング一の天才発明家のワシが改造して最強の防具にしたのじゃ!」
「聞いてないよ、んなこと!」
 桃は再び甲羅を蹴っ飛ばしたが、やっぱりビクともしなかった。
「無理じゃと言っとろう」
「ひゃっ!」
 桃らしからぬ声をあげてしまった。
 甲羅からにょきっと出た手が桃のふくらはぎを触っていた。
「クソハゲ!」
 すぐに桃は手を捕まえようとしたが、さっと甲羅の中に隠れてしまった。
 あのふくらはぎを触られた感触。全身に悪寒が走るテクニックだった。
 どうにかして締め上げてやりたいが、甲羅の中に隠れられていては手が出せない。
 そこで桃はこう叫んだ。
「酔った娘が裸踊りしてるぞ!」
「なぬっ!?」
 ハゲ爺が甲羅から頭を出した瞬間、桃はその首根っこをへし折る勢いで掴んだ。
「捕まえたぞ、ハゲ。どう料理してやろうかねぇ」
「離せ、首が折れる……やめっ、ワシを誰だと思っておるのだ!」
「誰でもかまいやしないよ!」
「ちまたで有名な亀仙人さまを知らんのか、またの名を浦島太郎じゃぞ!」
「知るかっ!」
 桃はハゲ頭をグーで殴った。
「ぎゃっ」
 亀仙人はそのまま甲羅から引きずり出された。
 そんなことが行われている後ろでは、温羅がまだ喚いていた。
「ねぇ、ちょっとぉ。あたしのこと放置プレイしないでよ、バーカ!」
 桃は怖い顔して振り返った。
「うっさい! 誰かそのクソガキに布でも噛ましておきな!」
 すぐに温羅は口に布を噛まされたが、それをすぐに噛み千切ってしまった。
「汗臭い布なんか食わせないでよ! 絶対仕返ししてやるんだからね!」
 キーキー喚く声が頭にガンガン響く。
 さっさと首を刎ねてやりたいと桃は思ったが、それは財宝のありかを吐かせてからだ。しかし今のままでは、いつまで経ってもしゃべりそうもない。
 温羅の頭が冷えて反省するまでどこかに……。
「早く自由にしてよ、呪い殺すぞウラァッ!」
 その前にこの口を縫ってやりたい。
 困っている桃の表情に気づいたのか、亀仙人がこんなことを言ってきた。
「あの鬼娘に手を焼いておるようじゃのう。よし、ワシが手を貸してやってもよいぞ」
「ハゲに何ができるんだい?」
 桃が尋ねると亀仙人は二カッと歯を見せて笑った。
「ワシが発明した大釜に閉じこめておけばよい」
「はぁ? 大釜って……ボケてるのかい?」
「頭はハゲておるが、ボケてはない。こう見えてもピチピチの一八歳じゃぞ」
「ウソつくなハゲ!」
 桃のグーパンチが再び亀仙人を襲った。
「ぎゃっ、ウソではない……とにかく、ワシの作った大釜は罪人を閉じこめておくにはもってこいじゃ。どんな怪力の持ち主でも外に出ることは不可能じゃぞ。さらに今なら防音仕様のサービス付きじゃ!」
 ――というわけで、亀仙人が用意した大釜に温羅を閉じこめたのだが。
「出しなさいよウラァッ!」
 防音仕様の役立たず!
「出せ出せ出せーっ!」
 大鎌の中で喚き続ける温羅。
 桃は耳を塞ぎながら傍らにいた亀仙人の頭を引っぱたいた。
「ぜんぜん駄目じゃないか!」
「ワシのせいではない、鬼娘の声が馬鹿デカイのじゃ。じゃが、声は出せても体は出てくることはできんじゃろう」
「本当だろうね?」
「この天才発明家の亀仙人さまが言っておるのだ、間違いない!」
「まあよしとするかね。仕方ないからその大釜は海の底に沈めておきな!」
 これを聞いた温羅は焦る焦る。
「ちょっと、美少女にそんなことするなんて非人道的だと思わないわけ!?」
 思いません。
 桃はまったく聞く耳持たず、村の者に命じて温羅の入った大釜を運び、海獣どもの巣くう荒波の海に沈めることにした。
 さっそく桃たちは村人を引き連れて海までやってきた。
 そして、波が打ち寄せる断崖絶壁から、村人が大釜を海に投げ入れた。
「いやぁ〜ん、絶対呪い殺してやるぅ!」
 ザッバ〜ン!
 温羅は呪いの言葉を残して暗い海に沈んだ。

 ――一方そのころ。
 ナンパに惨敗した挙げ句の果ての猿助。
「うげぇ〜っ飲み過ぎた。やべっ、しょんべん漏れる!」
 トイレを探して歩き回っているうちに、なんだかいつの間にか竹藪に迷い込んでしまった。
 ガサガサっと笹が風に揺れる。
「わっ!」
 短く叫んで猿助は身を縮めた。
「どこだよここ。早く外に出てーけど、道がわかんねーし、しょんべんもしてーし」
 夜空に輝く満月。
 月光は煌々と明るいが、竹藪に入ってしまうと、身の毛がよだってしまうのは仕方あるまい。
 近くに誰もいないし、それがまた怖いのだが、周りに人気がないことを確認して猿助は立ちしょんすることにした。
 着物を下ろした猿助は、尻丸出しで仁王立ちをして、太い竹に向かってしょんべんをした。
 じょぼじょぼ〜。
 っと、黄金色の液体が放物線を描きはじめたそのとき!