新説御伽草子~桃ねーちゃん!
「アタイに怖いものなんかありゃしないよ。それよりもあの小娘を取っ捕まえて、隠してる財宝のありかを全部吐かせてやる」
「正義のために旅をしているんじゃなかったんでしゅかぁ?」
桃はその言葉を聞いて一笑した。
「誰が、んなことを……この世は金銀財宝とイケメン。それを求めて自由気ままな漫遊さ」
もっともらしい答えだった。
ポチは正直、こんな人について行っても平気なのかと悩んだが、記憶喪失で行く当てもなく、桃はこんな人だけど雉丸は優しいので、今は現状維持ということになりそうだった。
温羅が隠れている場所、それと財宝のありかにポチは心当たりがあった。
「温羅の姐御さんの部屋には隠し通路のほかに隠し部屋もあるんでしゅ。そこには魔法の研究室と大きな金庫があるんだって、ボクも入らせてもらったことないけど」
「なるほどね、さっさと行くよ」
桃はポチを脇に抱えて長い廊下を走った。
巨大な城の中をポチの案内で難なく温羅の部屋までやってきた。中に入ると相変わらずの部屋だ。
手下の鬼どもからは想像もできない乙女チックなくつろぎ空間。と、言いたいところだが、数時間前に温羅が狂喜乱舞したせいでヒドイ有様だ。
「ここのどこに隠し部屋があるんだい?」
桃が尋ねるとポチは首を横に振った。
「ボクも知らないんでしゅ。その部屋に入るところは見せてもらってないだもん」
「役立たず」
桃はポチをスプリングの壊れたベッドに投げた。
「うわぁん、投げないでよぉ」
「うっさい、あんたもさっさと隠し部屋の入り口探しな!」
「はぁ〜い」
少し泣きそうな顔をしてポチは返事をした。
ポチは桃が見落としそうな背の低い場所を重点的に探した。
しばらくして、ポチが鼻をクンクン動かした。
「あ、血の痕みーっけ!」
桃もその場所を見た。
「よくやったポチ」
「へへ〜ん、ボク偉い?」
瞳を輝かせるポチは完全にシカト。桃はその血痕を調べはじめた。
その血痕は不自然だった。床に落ちて円を描くハズの血がタンスの下になって途切れているのだ。つまり、血痕が落ちたあとにタンスが動いたことになる。
桃は剛力を込めてタンスを横に動かした。すると、その裏の壁に扉があった。迷わず桃は扉を開けて中に飛び込んだ。
薄暗い部屋には薬品の臭いが立ち込めていた。壁際には本棚に並べられた分厚い背表紙の本。部屋の中央には人を煮込めるほど大きな釜。
気配がした。
部屋の隅に立っていた長身の影。
桃は少し驚いたように口を開けた。
「雉丸……どうしてここに?」
そこに立っていたのは雉丸だった。
「温羅を追ってここまで来たんだけど、逃げられちゃった。えへっ♪」
いい知れない悪寒が桃の背中を走った。
「おい、雉丸……しゃべり方がおかしくないかい? 頭でも打ったんだろ?」
「うんうん、ちょっぴり頭打っちゃったかも、えへへ」
お茶目に笑う雉丸。
早く病院に連れて行かなければ大変だ!
ちょっと頭の壊れた雉丸を前に、桃もポチも戸惑いの表情を浮かべている。
そこへ温羅の部屋からやって来る気配。
桃はすぐさま振り向いて唖然とした。
「雉丸!?」
前にも雉丸、後ろにも雉丸。
「桃さん、大丈夫でしたか? ポチも大丈夫だったかい?」
こっちの雉丸はいつもと同じしゃべり方だ。
ポチはあとから現れた雉丸に抱きついた。
「こっちが本物の兄さまだよ、だって煙草の匂いが微かにするもん!」
それ以前に、向こうの雉丸は最初からしゃべり方が怪しかった。
偽雉丸がポンと煙に包まれたかと思うと、その場所に温羅が姿を現した。
「さすがポチ、見破るなんてすご〜い。エライ、エライ♪」
だからポチじゃなくても、しゃべり方で……。
正体を現した温羅は三人に追い詰められた。
逃げ口は桃たちの背後。温羅は壁に背をつけて逃げ場を失ったかのように思われた。
でも、逃げ場がなければつくればいい!
温羅の手に握られたデスサイズ。
「ウラウラウラウラァッ!」
狂喜乱舞して襲い来る温羅。
まずポチが怖くて道を開けた。
次に桃は物干し竿で攻撃――ガツン。物に引っかかって動かない。
最後に出口の前に立ちふさがる雉丸が腰のホルスターからリボルバーを――抜かない。
「俺は桃さんと違って少女に手を上げるのは……」
素手で雉丸は温羅を押さえようとするが、巨大な刃が振り回され近づけない。
温羅は出口の光に向かって飛び込んだ。もう破壊伸と化してしまった温羅を止められる者はいないのかっ!
次の瞬間、ゴツン!
ものスゴイ音がして、なぜか背中から転倒した温羅がついでに、後頭部をガツン!
床に倒れた温羅は頭の上に星を回しながら気を失ってしまった。
そして、遅れて聞こえてきた叫び声。
「いっでぇ〜っ!」
出口のところで猿助がおでこを押さえてうずくまっていた。
桃は呆れてため息を漏らした。
「はぁ、よくやったって誉めてやる気にもなれないねぇ〜」
雉丸もおでこを押さえて沈痛な表情をしていた。
「なんだか俺も頭が痛くなってきた」
この中ではしゃいでいるのはポチだけだった。
「サルたんすご〜い、温羅の姐御さんを一発で倒しちゃったぁ!」
言われてはじめて猿助は床で気絶する温羅に気づいた。
「マジ、オレが!? 姉貴、ご褒美に姉貴のパフパフを!」
「いっぺん死んでろ!」
「ぎゃっ!」
桃の美脚に金的された猿助は泡を吐いて気絶した。
「雉丸、小娘に縄でもかけて運びな。はい撤収!」
桃のかけ声で猿助を残して、はい撤収!
飲めや歌えの大宴会。
夜が更けるにつれて、村人たちの煽る酒の量が増えていく。
台上には立てた丸太に縛り付けられ、祭り上げられている一人の少女。左目にアイパッチをしている温羅だ。
「早くあたしを自由にしないと痛い目見るんだからね。みんな地獄に堕ちちゃえばいいのよ、バーカ!」
この調子で何時間も喚き続けている。喉が嗄れるようすもないので、まだまだ喚き続けることだろう。
その横では酒瓶を片手にあぐらを掻いている桃がいた。
「クソガキが、さっさと財宝の隠し場所を言わねぇーか!」
「ふん、言っても言わなくても自由にしてくれないのはわかってるんだからね!」
「てめぇ、減らず口が利けないように、喉を引っ張り出して結んでやろうか!」
ホントにやりそうな勢いだったので雉丸が止めに入る。
「まあまあ、そんなことをしたら財宝のありかもしゃべれなくなりますから、ね?」
「ったく」
ふてくされた桃は酒を煽った。
村は?海の魔女?と畏れられた温羅が捕らえられ、魔女っ娘海賊団も壊滅したことで大盛り上がり。桃たちは勇者さま御一行としてもてはやされたが、桃はそんなことより財宝だった。
どこかで若い娘の悲鳴が聞こえた。
お祭り騒ぎで酒を飲んだ変質者も出るだろう。
「サルがナンパでもしてんだろうよ」
桃はその一言で片付けてしまった。
村の若い娘がやってきて、雉丸の腕に腕を回してきた。
「かっこいい勇者さま、こっちで飲みましょう」
「俺は……だから……ああっ……」
若い娘に囲まれて強引に雉丸は引きずられていってしまった。
ポチの周りにも娘たちが集まっていた。
「きゃーかわいい!」
作品名:新説御伽草子~桃ねーちゃん! 作家名:秋月あきら(秋月瑛)