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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 ゴン!
 鬼の顔面に桃の投げた桶が激突した。
 湯船からすっぽんぽんで立ち上がる桃。
「グタグタ言ってじゃないよ。女湯に女のアタイが入ってるんだ、痴漢呼ばわりされたくなきゃさっさと出てお行き」
 桃のナイスバディを見た鬼は股間を押さえて後ずさりをした。
「汚ねーぞ、おらを誘惑するつもりだな!」
「そんなに見たいなら見せてやるよ。ただし、代償はてめぇの体で払ってもらうけどな!」
 桃は指を鳴らしながらズカズカと鬼に近づく。
「そ、それ以上近づくなよ。別に女の裸なんか見たって嬉しくないんだからな。ウチの海賊団にいる女つったら、頭の姐御だけだが、ツルペタでまったく色気を感じないから、やっぱり女っ気のない男の集団……だ、だからって決して女に飢えているわけではないからな!」
 と、言いつつ、鬼は桃の揺れる爆乳に合わせて首を上下させている。
 ついに鬼は壁に背中をべったりつけて、逃げ場を失ってしまった。
「なんだ、おらとやろうっつーのか。おらは強いんだぞ、なつったっておらは鬼道戦隊鬼レンジャーのリーダー、赤フンのレッドなんだからな!」
「何が赤フンだよ、今はフルチンじゃないか」
「な、なんだとー!」
 顔を真っ赤にしたレッドが桃に襲いかかるが――股間を蹴り上げられ一発KO。
 泡を吐いて白目を剥いているレッドを尻目に、桃は干してあった着物に着替えはじめた。
「てめぇらいくよ、あんまり浸かってると湯冷めしちまうからね」
「はぁーい!」
 元気に返事をしてポチも湯船から上がった。
 雉丸はいつの間にか完璧に着替えている。
 準備を整えた三人は先を急ぐ。何か忘れているような気がするが、誰もそれを口にしなかった。
 ポチの話によると、この女湯は温羅の部屋まで隠し通路で直通らしい。というか、この女湯自体が温羅専用らしい。
「なんで隠し通路なんか知ってるんだい?」
 桃が尋ねると、ポチは当然のように答えた。
「だっていつも一緒にお風呂に入ってたんだもん!」
 恥ずかしげもない顔をしていた。
 隠し通路は人が一人通れるほどの幅で、道も一本ではなくいくつか分かれていたが、ポチは迷うことなく案内役を勤めた。
「この先だよ」
 ポチはレバーを引いて扉を開けた。
 甘い香りがした。
 部屋に入った三人が見た物は、海賊団の頭の部屋とは思えない部屋。
 淡い花柄の壁紙、猫足のテーブルの上には食べかけのショートケーキ、薄い布で仕切られたベッドから小さな寝息が聞こえてきた。
 ベッドの上でモゾモゾと小柄な影が動いた。
「誰かいるのぉー?」
 犬のぬいぐるみを抱えた少女が目をこすりながら起き上がってきた。
 思わず桃は訊いてしまった。
「これが恐ろしいって言われてる海賊団の頭かい?」
 そこに立っているのはネグリジェを着たトラ耳少女。ブロンドの猫っ毛が寝癖でアホ毛になっている。
 寝ぼけていた少女の目が急に見開かれた。
「ポチ! ポチ、ポチ、ポチポチポチ、帰って来てくれたのねポチ!」
 少女は持っていた犬のぬいぐるみを壁に投げつけてポチに抱きつこうとした。
 その前に立ちはだかる桃。
「あんたが温羅かい?」
「……だ、誰!? なに、どうやってここに入って来たのオバサン!」
 スゴイ驚いたようすで少女は飛び退いて、ポンと煙に包まれたかと思うと黒いワンピースに鍔の広い三角帽子に着替えていた。
「そうよ、あたしが魔女っ娘海賊団の船長、大魔導士温羅だけど何か?」
 ここに来て戦ってきた鬼どもとは大違いだ。紅一点の少女ということより、一人だけ魔女っ娘で浮いた存在だ。
 オバサンと呼ばれた桃はちょっとムカッとしていた。
「誰がオバサンだって言うんだよ。こんな美人のおねーさまに向かって言う言葉じゃないね。あんたの眼、腐ってるんじゃないのかい?」
「えっ、美人のおねーさんなんてどこにもいないけどぉ?」
「クソガキがっ!」
 女と女の熾烈な戦い。二人の目線の間で火花が散っている。
 桃の怒りは飛び火して拡散した。
「あんたらも何ボサッとしてんだい、雉丸、ポチ!」
「俺はフェミニストじゃありませんが、少女の手を上げるのは……」
「ボ、ボクは……」
 ポチは怯えて部屋の隅で丸くなってしまっている。
「どいつもこいつも!」
 爆乳を揺らして怒る桃は物干し竿を振り回そうと――ガシャン、ガツン、ゴトン!
 狭い部屋で物干し竿は振り回せなかった。致命的な弱点だ。
 部屋をめちゃくちゃにされた温羅はプンプンして、頬をふくらませて唇を尖らせた。
「もぉ、怒っちゃうんだからね!」
 その言葉を聞いてポチが震え上がった。
 どこから出したのか、温羅はデスサイズを握りしめていた。首切り鎌は温羅と同じくらいの大きさで、少女の腕力で振り回せる代物ではないが――。
「ウラウラウラウラァッ!」
 まるで鬼神に憑依されたように、温羅はデスサイズをブンブンブン回した。
 テーブルやイスやタンスまで、木っ端微塵に破壊されていく。部屋を壊されて怒っていたのに、やってることは支離滅裂で本末転倒。
 暴れ回る温羅は桃たちを倒すというより、そこにあるものをすべて破壊する勢いだ。というか、理性のある行動にまったく見えない。
「ウラウラウラウラァッ!」
 ガツン!
 デスサイズが床に刺さった。
 温羅が力を込めて抜こうとするが、ウンともスンともビクともしない。
 この隙を突いて桃が声を張る。
「いったん引いて広い場所に出るよ!」
 部屋を飛び出した桃。
 雉丸も怯えたポチを抱きかかえて部屋を飛び出した。

 桃たちは城内を走り回り、次から次へと増える鬼に追われて外に出てしまった。
 完全武装した鬼たちに囲まれて逃げ場はない。
 蛮刀や銃を持った鬼どもが、下卑た笑みを浮かべてジリジリ迫ってくる。その間を割って小柄な少女が姿を表した。
「あたしのポチを返してよ、返してってば返して!」
 温羅は駄々をこねて地団駄を踏んだ。
 ポチは雉丸に抱きかかえながらブルブル顔を横に振った。
 雉丸が代わりに答える。
「ポチは帰りたくないと言っているが?」
「ポチはあたしのペットなんだから返してよ! ちゃんと首輪だってついてるんだから!」
 温羅の言うとおり、ポチの首にはペット用の首輪が巻かれている。雉丸はそれを外そうとするが、留め具もなく力を込めても壊れない。
 仔悪魔チックに温羅は笑った。
「ふふ〜ん、その首輪はあたし以外は外せないも〜んだ!」
「子供に手を上げるのは本意ではないが、仕方ないな」
 雉丸はリボルバーの銃口を温羅に向けた。
 桃も広い場所で物干し竿を構えられてヤル気満々。
「束になってかかっておいで、みんなアタイの足下にひれ伏させてやるよ。なんたって、アタイはジパング一の美女だからね!」
 血気盛んな鬼どもも今か今かと温羅の合図を待っている。
 温羅が桃たちに指を向けて叫ぶ。
「みんなやっちゃえ!」
 合戦でもはじまったかのような、男たちの蛮声が轟いた。
 自信に満ちあふれた表情を浮かべている桃。精神はどこまで気高く、負ける気などさらさらなさそうだが、敵の数はあまりに多く傍目からは劣勢を感じる。
 銃弾が桃の真横をすり抜ける。それでも桃は引きなど毛頭ない。