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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 ドゴォーン!
 桃は思いっきりドアを蹴破った。
「…………」
 呆然とする桃。
「逃げられた!?」
 個室の中はもぬけの殻。
 ノック音に反応する音声再生機がトイレのフタの上に置かれていた。
「どこ行った?」
 トイレには?故障中?の張り紙。水を流すレバーには?触れるな危険?の張り紙。
 ……怪しい。
 桃は躊躇せずに触れると危険なレバーを下げた。
 すると本来なら水が流れるハズが、代わりにトイレの脇にあった隠し扉が開いた。ここからかぐやは逃げたに違いない。
 狭い入り口から続く先も狭い路だった。人ひとりが通るのでやっとだ。天叢雲剣がちょー邪魔。
 長く続く一本道を抜けると、そこは大きな球体状の部屋だった。
 球は網柄の床で半分に仕切られ、床の一部を切り抜いた部屋の中央には、漆黒に輝く巨大な球体が自転していた。
 かぐやは部屋の向こうでドアを引いたり押したりしていた。
「マスターキーどこで落としたんだろう。お願いだから開いて、早くしないとクソババアが来ちゃう!」
 かぐやの背後に忍び寄る鬼気。
「クソババアって誰のことだい?」
 ハッとしてかぐやが振り向くと、そこにはやっぱり桃がいた。
「もう来たの早すぎっ!」
「あんたの言ってたカギってコレのことかねぇ?」
 桃は〈黄金の鍵〉を指先で摘みながら、ユラユラ揺らして見せた。
「あっ、返してかぐやのカギ!」
「そんなに大事なカギなら、どうしてさっきの隠し通路なんか落としたんだい。ドジな子だねぇ」
「かぐやドジじゃないし、不可抗力だし。そのカギがないと困るんだから返して!」
「具体的にどんな風に困るんだい?」
「たとえばここの扉が開かないとか、ラビットスターが発進できないとか……って何言わすんじゃボケッ!」
 それだけ聞けば十分。
「絶対返してやんねぇーよ」
 意地悪に桃は笑った。
 この〈黄金の鍵〉はかぐやがジパングに落ちてきたときから首に提げていた物。記憶を失っていてもずっと肌身離さずお風呂のときも持ち歩いていた。無意識にもこれが大事な物だと認識していたのだ。
 かぐやがジパングで記憶喪失になっている最中、この大事な〈黄金の鍵〉がなかったために、ラビットスターに残された部下は大変苦労したらしい。
 なんとしても〈黄金の鍵〉を取り返さなければならない!
「早く返して!」
「返して欲しけりゃ力ずくで奪ってみな!」
「……仕方ない」
 かぐやは呟いた。
 そして、かぐやは謎の小壺を取り出した。
「これが何だかわかる?」
「茶色い壺だろう?」
「中身を聞いてるに決まってるじゃん!」
「そんなの知るわけないだろう」
「この中にはラビットスターのスーパーメインコンピューター〈ウサッピー〉が弾き出した、あなたの弱点が入っているのよぉっ!」
「なにぃ!」
 桃は劇画チックな顔で驚いて見せた。かなりのオーバーリアクション。
 が、すぐに気を取り直した。
「アタイに弱点なんかあるわけないだろう。そんなもんがあるなら見せてもらいたいねぇ」
 強気な態度。本当に弱点がないのかもしれない。
 だったら小壺の中に入っているモノは?
「〈ウサッピー〉が導き出した答えに間違えないし。なんで弱点なのかまでは計算できなかったけど、使ってみればわかること!」
 かぐやが小壺のふたを開けて中から取りだしたのは――梅干し!
 これさえあれば白米何倍でも行けちゃうぜ。ジパングを代表する国民食だ。
 生唾を呑んだ桃の顔色が明らかに変わった。
 ゆっくりと桃が後ずさりをしていく。
 桃が、あの桃が怯えている!
 何の変哲もない梅干しにどんな恐怖が詰まっているというのだ!?
 さっそくかぐやは梅干しを一つ手に取り、剛速球!
「喰らえクソババア!」
「そんなもん喰えるかクソガキ!」
 桃は天叢雲剣で梅干しを打ち返した。
「クソババア、食べ物に粗末にすんなよボケッ!」
「てめぇが投げてんだろ!」
「避けるババアが悪いんだろボケッ!」
 結論、梅干しは投げても打ってもいけません。
 そんなことなどお構いなしにかぐやが梅干しを連続で投げる。
「喰らえ梅干し乱れ打ち!」
「乱れ打つのはこっちだよ!」
 投げてきた梅干しをすべて打ち返した。
 互いに息を切らせるかぐやと桃。
 かぐやは新たな梅干しを取ろうと小壺に手を突っ込むが……ない!?
 相手の反応を見て桃は凶悪な笑みを浮かべた。
「もう終わりかい? 残念だったねぇ……」
 ギロリ!
 桃の眼で睨まれかぐやはすくみ上がった。
 ここから桃の反撃がはじまる。
 と、思いきや。
 かぐやは地面に落ちている梅干しを拾って投げた!
「喰らえババア!」
「うわっ!」
 不意を突かれた桃はらしかれぬ情けない声をあげてしゃがみ込んだ。
 本気で梅干しが怖いのだ。
 チャンスを見いだしたかぐやがしゃがんだ桃に梅干しを投げつける。
「梅干しが怖いだなんて笑っちゃうんだから!」
「やめーっ!」
 顔を防いだ桃の手に梅干しが当たった。
 眼を丸くしてかぐやはその一部始終を見た。
 叫ぶ桃。
「あぁぁぁっ!」
 その手が見る見るうちに萎れていく。まるで老婆のような枯れた手。
 かぐやはピンとひらめいた。
「梅干しアレルギー!?」
「違うわっ!」
 アレルギーではないにしても、あれほどまでに桃が梅干しを畏れる理由がわかった。単純な好き嫌いではなく、何らかの理由で人体に害を及ぼすのだ。
 そうとわかればかぐやは床に落ちている梅干しを拾って投げるまで!
 梅干しを拾おうと伸ばしたかぐやの手が止まる。
「揺れた?」
 それは震度一にも満たないごく僅かな揺れ。
 しかし、巨大なラビットスターが振動したということは、どこかで大きな爆発があったのかもしれない。
 すぐにかぐやはうさ耳をそばだてた。
「……なに……もっと強く念を送って……」
 突然の独り言。
 かぐやが危ない人になってしまった!?
 一時休戦してでも桃はツッコミを入れずにはいられなかった。
「何独り言言ってるんだい、気でも狂ったかい?」
「ちょっと静かにして、仲間とテレパシーで交信してるんだから!」
「テレパシーなんか使えるのかい!?」
「かぐやの種族が体得できる高位の……って静かにしてよ!」
 かぐやは仲間との交信に集中した。
「なになに……格納庫が破壊され……脱出ポッドも全滅……って、マジでーっ!?」
 なんだか救急事態が起こっているらしかった。
 急に真剣な顔をするかぐや。
「あなたと遊んでる場合じゃないみたい。あなたの仲間のせいでスペースかぐやは滅茶苦茶よ」
「アタイの下僕たちが悪さでもしたのかい?」
「まずはご主人様から責任取ってよね!」
 かぐやの手が梅干しの伸びた!
「させるか!」
 桃が天叢雲剣を振った。
 鋭い骨の塊がかぐやに直撃する寸前、彼女は苦い顔して桃を指差した。
「ラビットビ〜ム!」
 なんとかぐやの耳からビームが出た!
 両耳から出たビームは螺旋を巻いて一本になり、天叢雲剣を弾き返した。
 驚いて口を開ける桃。
「まともに戦えるんじゃないか?」
「これもかぐやの種族が体得できる技のひとつなの。できれば使いたくなかったけど」
「他にはどんなことができるんだい?」