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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 これでどうやってスパゲティを食べようとしていたのか?
 微かにシューゴォーという呼吸音が聞こえた。
 無我夢中で鈴鹿は猿助のヘルメットとお面を投げ捨てた。
「嗚呼、なんてこと……」
 静かに自分のヘルメットも脱ぎ捨てながら、鈴鹿は瞳から一筋の涙を零した。
 そこにあったのは変わり果てた猿助の姿。
 体中の水分――いや、精力を吸い尽くされて枯れ果てた猿助の姿。それはまるで干からびたワカメ、キノコ、ミミズか……とにかく、見る影もない皺だらけの顔がそこにはあった。
「す……ずか……」
 グローブを嵌めた猿助の手が伸ばされ、鈴鹿はそのグローブを取って枯れた手を握った。
 まるでその手や指は枯れ枝のようだった。温かいぬくもりもなく、ただ冷たく哀しいだけ。
「ダーリン死なないでくださいまし!」
「……最期は……桃の姉貴に……パフパフ……」
 ガクッと猿助の首から力が抜けた。
「ダーリン!」
 鈴鹿は人生ではじめて慟哭した。
 皺だらけの顔に落ちて消える大粒の涙。
 枯れてしまった猿助の口の蕾に、鈴鹿は自らの瑞々しい朱色の蕾を重ね合わせた。
 交わされた口づけ。
 緩やかに鈴鹿は顔を離した。
「妾の口づけでは目をお覚ましにならないのですね」
 再び鈴鹿の瞳から涙がこぼれ落ちた。
 短くも長い時間。
 静かな刻の中で猿助は鈴鹿の胸に抱かれ……。
「ぐぅ〜がぁ〜!!」
 いびきを掻いていた。
 さらに――。
「パフパフ……パフパフ……」
 鼻の下を伸ばしていた。
 最悪だ。
「この浮気者っ!」
 鈴鹿の強烈な怒りの鉄拳が猿助の顔面にめり込んだ。
 今度こそあの世に逝ったかな猿助♪
 死相を浮かべて気絶した猿助を鈴鹿が背負った。
「んもぉ、ジパングに帰ったら温泉に突っ込んでやりますわ!」
 乾燥椎茸扱いだった。

 雉丸は周りの敵を一掃したあと、猿助のことは鈴鹿に任せ、ポチと共に通気口に進入した。
 迷路のように入り組んだ通気口を抜け、先に廊下へ降りた雉丸がポチを抱きかかえて通気口から出した。
 けたたましいサイレンが鳴っている。今頃、血眼になって兵士たちが駆け回っているに違いない。
 雉丸とポチは先を急いだ。
 金属の廊下に響き渡る足音。二人分、三人分、四人分……雉丸とポチ以外の足音も響いてくる。
 立ち止まって身構えている暇はない。
 さっそく前方から敵の影が駆け寄ってきた。
 しかし、その姿は……?
 雉丸は首を傾げた。
「誰だったか……それよりもなぜここにいる?」
 色取り取りのふんどし姿。
 赤フンのレッド参上!
「我ら鬼道戦隊鬼レンジャー改め、かぐや護衛隊の五人囃子(ごにんばやし)だ!」
 鬼レッドの左右に並ぶ鬼ブルーと鬼イエロー。
 さらに雉丸とポチの背後には鬼グリーンと鬼ブラック。
 一本道の廊下で挟み撃ちされてしまった。
 雉丸はショットガンをバットのように握った。
「弾がもったいない」
 はい、瞬殺。
 ボコボコにされた鬼の山を踏んづけて雉丸とポチは先を急いだ。
 どうしてフンドシレンジャーがここにいたのか語られずまま。まあ、別にたいした理由なんてないだろうけど。
 雉丸とオマケのポチの目的は、脱出ルートの確保とその他重要任務。
 向かう先はエンジンルームだった。
 途中でカートを奪い大通路を爆走する。運転席に乗ってるのはポチだったりして!
「ボ、ボク運転できないよぉ〜!」
「大丈夫だよポチ、自動運転モードがあるから」
「でもそうやって自動運転に切り替えるの?」
「さぁ?」
 さわやか笑顔の雉丸。
 恐怖に顔を歪ませたポチ。
「わぁ〜ん!」
 結局ポチがハンドルを握るハメになった。
 大勢の兵士たちがビームライフルを構えて並んでいる。
 次から次へと土砂降りの雨のようにビームが飛んでくる。
「わぁ〜ん怖いよぉ!」
 ビームコーティングされたフロントガラスに弾かれるビーム。貫かないとわかっても怖い。
「わぁ〜ん!」
 叫びながらも華麗なハンドルさばき。そのまま兵士の列に突っ込んだ。ね、華麗でしょ?
 寸前で兵士たちの列は左右に分かれ、その光景はモーゼの海割り状態。壮観なまでに兵士たちがぶっ飛び退いてくれる。
 危機に迫られて道を開けてしまった兵士たちだが、すぐに体勢を立て直してカートのバックにビームを乱射する。
 再び土砂降りのようなビームが飛んでくる。
 雉丸はカートに積まれていた武器を手に取った。どうやらバズーカ砲のような形をしているが?
 スコープを覗き照準をオートセット。
 使ったことがなくったって、使ってみればわかります。
 はい、発射!
 青白い稲妻のような光線が暴れ回り、次から次へと兵士たちが感電していった。
 シュ〜っと煙を上げる黒コゲの山。
 凄まじい殲滅力だった。
 カートは兵士たちの海を越えたが、その先に待ち受けていたのは巨大ロボットだった。
 二足歩行の人型機体、紅く光る一つ眼、頭にはエネルギーを受信するウサミミ。これはまさしくスペースかぐやの主力戦闘機体ラビ?だ。
 ラビ?はラビバズーカを構えたが、室内で撃つと大変なことになるのでやめて、ラビマシンガンも危ないし、巨大なトマホークを構えた。
 あんなトマホークでぶっ叩かれたらカートは真っ二つだ。
 雉丸はスコープを覗き引き金を引いた。
 稲妻光線発射!
 あっさりとラビ?の持っていた盾で防がれた。
 こうなったらアレしかない!
 雉丸は声を張り上げる。
「ポチ、細い路に逃げ込んで!」
 だって戦う必要なんてありません!
 別にアレがラスボスってわけでもないし、雉丸たちの目的は別にある。ここで時間を取られる必要なんてナッシング!
 ハンドルを切るポチ。カートの後ろからは巨大な足音を立ててラビ?が追っかけてくる。
 ここのまま逃げ切ることはできるのか!?
 ドスン!
 隕石でも落ちたみたいな衝撃でカートが浮かび上がった。
 雉丸が後ろを確認するとラビ?が倒れていた。その背中から伸びているエネルギーコード。予備バッテリーに充電中だったのだ。
 雉丸はだんだんと自分たちの心配より、宇宙海賊団スペースかぐやの心配をしはじめた。
 ――この宇宙海賊はこんなことでやって行けるのだろうか。
 持っている技術力はスゴイが、それを使っている吸血姫美女軍団のマヌケさが……。
 カートは起き上がれないザビ?を尻目に、どこまでも走り続けた。
「ブレーキどこぉ!」
 だってブレーキのかけ方がわからないから。

 操舵室から隣の部屋、かぐやが逃げ込んだ先はトイレだった。
 基本女子トイレしかないラビットスター内。
 トイレは当然のように全て個室。
 桃がトイレに飛び込んだとき、とある個室に飛び込んだかぐやの横顔を見えた。
 すぐに桃はプロテクトスーツを脱いで、その個室の前に立った。
「便所になんか隠れてねぇーで、さっさと出てきな!」
 ゴンゴンゴン!
 桃はドアを殴るようにノックした。
 すると返事が返ってくる。
「入ってまーす」
「知ってるつーの!」
 ゴンゴンゴンゴンッ!
 さっきよりも激しく叩いた。
「入ってまーす」
「だから知ってるつーの!」
 ドンガンゴン!
 殴る蹴るした。
「入ってまーす」
「てめぇいい加減にしろよ!」