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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 狂ったように暴れ狂う八岐大蛇。甚大な被害が出て状況は悪化した。
 そして、さらに状況を悪化させる出来事が起きた。
 樟葉が身をよじらせたかと思うと、いきなり金色の狐に姿を変えて巨大化しはじめたのだ。
 八岐大蛇よりは小さいが、そのサイズは見上げて首が痛くなるほど。金色の狐には尾が九尾あった。ジパングでも三本の指に数えられる妖魔――九尾の狐だ。
 しかも、その尻尾を振るもんだから建物が壊れる壊れる。
 それを見た晴明は他人の振りを決めこんでいる。
 八岐大蛇VS九尾の狐
 人智を越えた怪獣大戦争がはじまろうとしていた。
 先に仕掛けたのは八岐大蛇だ。
 燃えさかる火炎を口から吐き出した。
 すぐに九尾の狐が自慢の尻尾で応戦する。
『竜巻旋風尾殺(たつまきせんぷうびさつ)!』
 クルクル回る九尾がまるで扇風機のように風を起こし、炎を瞬く間に消し去ってしまった。と、同時に強風で建物が吹き飛ばされた。
 かぐやが晴明に向かって叫ぶ。
「あんたのママは必殺技の名前言わないと技使えないわけ! デカイ口で叫ばれると頭にガンガンくるんだけど!」
 巨大化した分、声も巨大に鳴り響く。
 怪獣同士がぶつかり合っている中でも、ちっぽけな存在たちは頑張っていた。
 大通連で空を飛ぶ鈴鹿の背中に抱きついている猿助。
「落ちる落ちる!」
「もっと体を密着させてお掴まりくださいまし!」
 ジェットコースターのように宙を飛ぶ鈴鹿の運転。それもすべて襲い来る八岐大蛇の頭をかわすため。
 巨大な存在を前にたとえ無力と思えても、何かできることが必ずある筈。
 小通連が八岐大蛇の眼を狙って飛んだ。
 しかし、巨体の割りに細やかな動きでかわされてしまう。
 猿助が懐から何かを取り出して投げた。
「くらえ、忍法コショウ爆弾!」
 投げられたコショウ爆弾は見事に八岐大蛇の眼を潰した。
 コショウの痛みで一本の首が激しく暴れ回る。そして、しがみついていたかぐやが……落ちた。
「ぎゃぁぁぁっ!」
 さよならかぐや!
 雉丸はショットガンを巨大な眼球に撃ち込んだ。
 再び首を激しく揺らして暴れ回る八岐大蛇。
 たとえ鱗は堅くとも、こうやって眼球を一つずつ潰せば勝機があるかもしれない。
 そして、ポチは――。
「わぁ〜ん、ここどこぉ!?」
 八岐大蛇の背中で迷子になっていた。
 さらに晴明は食道を登っている最中だった。
「このまま胃に落ちてたまるかぁ〜っ!」
 どうやらいつの間にか食われていたらしい。
 他の者は八岐大蛇と九尾の狐の戦いを白い顔しながら見守ることしかできなかった。
 ――嗚呼、都が二匹の大怪獣に壊される。

 桃が昼寝をしている部屋にかぐやが飛び込んで来た。
「起きなさいよ!」
 その声にも反応せず、寝返りを打ってかぐやに背を向けた。
「起きなさいってば!」
 かぐやは桃の上に馬乗りなって、自分のほうに無理矢理体を向かせた。
「起きろクソババア!」
 ちょっと桃の目尻がピクッと反応したが、それ以上のアクションはなかった。
「起きないと胸揉むからね!」
 そう言ってかぐやは桃の胸をグチョグチョにこねくり回しはじめた。
 さすがにこれには桃も声を荒げた。
「やめっ、やめろ!」
「やっぱり起きてるじゃないのよ!」
「人が気持ちよく寝てんのに何の真似だい!」
「外で何が起きてるか、窓の外をよーく見てみなさいよ!」
「めんどくさいねぇ」
 桃はかぐやを放り投げて再びふて寝をしてしまった。
 床に尻餅をついたかぐやは、耳の先までピンと伸ばして、紅い眼をさらに真っ赤にした。
「クソババア!」
 怒りを露わにしたかぐやは再び桃を自分に向かせ、大きく手を振り上げて強烈なビンタを放った。
 その衝撃は桃の口からツバが飛ぶほどで、唇の端から血がにじみ出していた。
 ついに桃はかぐやの胸倉を掴んで起き上がった。
「てめぇ、下僕の分際でご主人様に手ぇ上げるとは良い度胸じゃないか!」
「度胸だけならババアなんかよりありますよーだ!」
 あっかんべーをするかぐやに、さらに桃は怒りをぶつける。
「その舌引っこ抜いてやろうか!」
「何ですか弱い者イジメですか?」
「下僕に躾を教え込むだけさ!」
「もう別にかぐやは下僕でもなんでもいいけど、仲間が死にそうになりながら戦ってるのに、クソババアは呑気に昼寝だなんて良いご身分だこと。ポチなんかとっくに死んじゃってるんじゃないかなぁ」
 一瞬、胸倉を掴む桃の手が震えるほどに力を込められたが、それはすぐにスーッと抜けてしまった。
 桃はかぐやを突き放し、壁にゆっくりともたれ掛かった。
 うつむいたまま桃は静かに口を開く。
「やり合ってる相手は強いのかい?」
「都が全滅させられるくらい」
「で、アタイの力が必要ってわけかい?」
「別にぃ腑抜けババアの力は必要ないけどー」
 桃がニヤッと笑った。
「おうおう腑抜けなんてどこにいるんだい。アンタの目の前にいるのはジパング一のぜっ――」
「絶世の美女の桃ねーちゃんでしょ。はい、さっさと行くよ!」
 言葉を途中で奪われ、しかも腕をグイグイ引っ張られて桃は部屋の外に出された。
 かぐやに引きずられるまま宿屋を出て、住人たちが逃げまどい、家財道具を運び出している中、桃は怪獣大決戦の現場までやってきた。
「で、どっちを倒せばいいんだい?」
 桃は二匹の大怪獣は見比べた。
「あえて言うなら、両方?」
 かぐやの答えはきっと間違ってない!
 暴れ回った挙げ句、次々と都を破壊していく二匹。どっちも敵にしか見えない。
 大通連に乗った鈴鹿と猿助が桃の元に降りてきた。
 桃を見た猿助は大喜びだ。
「姉貴、やっぱり来てくれたんだな!」
「まあね、大取は最後に出たほうがカッコイイだろう?」
 見事、桃は華々しい大取を飾れることになるのか!
 しかし、たとえ桃といえど、人智を超えた大怪獣に打つ手はあるのか?
 さらにここで鈴鹿から残念なお知らせがあります。
「八岐大蛇は不老不死にも似た生命力を持っており、いくら傷つけても再生するばかり。先ほどからいくつか眼を潰したのですが、今ではもう回復しておりますわ」
 以上、残念なお知らせでした!
 嗚呼、こりゃダメだ。どう考えても絶望的だ。こうなったらみんなで九尾の狐を応援するしかないかもしれない。
 でも、九尾の狐が勝っても、都は廃墟になってるけどね!
 万が一、九尾の狐が負けたらもっと最悪だ。
 嗚呼、人間とはいかに無力なのだろうか。
 だがしかし!!
 桃はまったくどーして自信満々。彼女の辞書に敗北の文字はなし!
 屈伸、背伸び、準備体操を終えた桃は鈴鹿に眼を向けた。
「おい、あんたの刀を一本貸しな」
「イヤです」
 即答。
「グダグダ言ってねぇーで貸せ。何でもできるアタイだが、空だけは飛べないんでね。あんたの刀を貸せっつってんだよ」
 頼まれた鈴鹿はすぐに答えず、隣にいた猿助の顔を覗き込んだ。すると猿助がうんと頷いたので、仕方なく桃に小通連を差し出した。
「大事な刀ですので、無事に返してくださいまし」
「ありがとよ。でも、できればちゃんと鞘に入れて貸してくれないかい?」
「どうしてですの?」
「先端恐怖症だからに決まってるだろう!」