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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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「…………。鞘は……どこにいっちゃったんでしょう、戦いの最中に落としちゃったのかしら、てへっ♪」
 軽い嫌がらせだった。勝手に恋のライバルに認定されているせいだ。
 鈴鹿から刃剥き出しの小通連を受け取った桃。若干だが、顔に汗が流れた。
「先端恐怖症なんて嘘に決まってるだろう。ちゃちゃっとやっつけて帰ってくりゃいんだよ!」
 威勢よく桃は小通連に乗って空を飛んだ。
 九尾の狐の相手に忙しい八岐大蛇は首の一本で桃の相手をしようとした。
「甘く見られたもんだねぇ……うぉりゃッ!」
 襲い来る首を容易くも物干し竿で一刀両断。
 落ちた。
 誰もがまさかと口を開けたまま固まった。
 巨大な八岐大蛇の首が、たかが竹の棒で切断されたのだ。
 おそらく誰よりも驚いたのは八岐大蛇だろう。その証拠に九尾の狐を差し置いて、残り首七つで桃に襲いかかったのだ。
 物干し竿が旋風を起こし桃が乱舞する。
 縦横無尽に暴れ狂う長い首が次々と落とされる。あまりな豪快さに桃こそ鬼神ではないかと畏れを抱いた。
 そして、ついに残る首は一つ。
 最後に残った首が天に向かって吼えた。
 雷声は空気に衝撃波を奔らせ、信じられないことが起きた。
 落としたはずの首が新たに生えて来るではないか!?
 危機と思われる状況下に置いても桃は楽しんでいた。
「なんだいなんだい、アタイと根性比べでもしようってのかい!」
 復活すれば、その度に斬る。
 どちらが先にバテるか、桃にとって根性比べに他ならないのだ。
 八岐大蛇の敵は桃だけではない。
「黄金千手観音!」
 九尾の狐が尻尾で連続ビンタ!
 なんかやってる動作が?竜巻旋風尾殺?と変わらない。
 八岐大蛇の頭に乗っていた雉丸が桃に向かって叫ぶ。
「首を落としたあと、傷口を焼いてしまえば再生できないはずです!」
「おうよ、首を落とすのはアタイに任せな。火は誰か任せた!」
 任されたのは九尾の狐だった。
『ならば妾の狐火で焼いて進ぜよう』
 そうと決まれば桃は斬って斬って斬りまくる。
 八岐大蛇の首が輪切りに下ろされる。あまり食べても美味しくなさそうだ。
 すぐに九尾の狐が炎を繰り出した。
「九連紅蓮華(くれんぐれんは)!」
 落とした首は八つ。飛んだ炎は九つ。
 残りの炎は八岐大蛇の背中の草木に燃え移った。山火事だ!
 山中で迷子になっているポチ。
「うわぁ〜ん、山が燃えだしたよぉ!」
 必死だった。
 全身を燃え上がらせ豪華に包まれた八岐大蛇。
 暴れ狂っていたのも一時、すぐに身動き一つせず、当たりは炎のだけが鳴り響いた。
 やったか?
 誰もそう思って歓喜の声をあげようとした瞬間、それは悲鳴へと変わった。
 それは脱皮するように、黒い燃えかすの殻を破って次々と長い首が天に昇った。
 復活した八岐大蛇は玉の肌。お肌ツヤツヤで前よりも素肌美人!
 なんてこったい!
 全身を焼かれてもなお復活する八岐大蛇。
 長く伸びた尾が鞭のように撓りながら桃に襲いかかってきた。
 それはまるで川と人間が戦うよう。
 桃は渾身の力を込めて物干し竿を振り下ろした。
「なっ!?」
 物干し竿が音を立てて折れた。
 桃が?気合い?で負けたのか!?
 そのまま桃は川のように長い尾に強打されて遥か後方までぶっ飛び、瓦礫の下敷きになって姿を消してしまった。
 まさか桃の物干し竿が折れる日が来ようとは、それは魂が折れたも同じ。
 万策尽きたかのように思えた。
 そのとき!
 ひときわ目立つ真っ赤なバイクで乗り付けた着物の女。
 その女はフルフェイスのマスクを脱ぎ捨て、風に艶やかな髪をなびかせながらその素顔を露わにした。
「みなさん、いつも金ちゃんがお世話になっております。母の呉葉です」
 雉丸のママだった。
 なぜか急に八岐大蛇が凍ったように動きを止めてしまった。
 呉葉は臆することなく八岐大蛇に近づいていった。
「あなたダメでしょ〜。別れた夫とはいえ、この事態は見過ごすわけにはいかないわ」
 と、妖しく光る包丁を握りしめながら言った。
 ギラリと光る包丁を見て呉葉がハッと息を呑んだ。
「あらやだ、料理の最中だったからそのまま包丁を持ってきてしまったわ」
 武器じゃないんかい!
 すでに八岐大蛇は後ずさりをはじめていた。
 呉葉が一歩進むごとに、八岐大蛇が一歩下がる。
 そして、八岐大蛇逃走!
 八岐大蛇が背を向けるために回転した瞬間、何十軒もの建物が一気に倒壊し、さらに尻尾の一本が呉葉に不可抗力で飛んできた。
「危ない母上!」
 誰が叫んだのか、刹那――桃ですら斬れなかった尾が両断されていた。
 そこに佇む呉葉の姿。その手に握るは万能包丁(ステンレス製)。
 万能だからって何でも斬れるわけがない!
 それをやってのけた呉葉……げにおそるべし。
 何事もなかったような柔和な笑みで呉葉はひとこと。
「あの人ったらシャイなんだから」
 そ、それが理由で八岐大蛇は退散したんですか!?
 マジですかっ!!

 何はともあれ、八岐大蛇はいなくなった。
 そのあとに残ったのは半壊した京の都。華々しい姿とはかけ離れた瓦礫の山だった。
 鈴鹿や陰陽師たちの喚んだ雨雲によってもたらされた雨で、都が炎の海に沈むことは免れたが、やっぱりそれでもヒドイ有様だ。
 八岐大蛇の燃えかすの中から烏帽子がぴょんと出て、晴明が飛び出した。
「ぶはーっ! 死ぬかと思った」
 うわっ、すっげー役立たず。
「ママからもらった〈火鼠の皮衣〉を下に着てなかったら燃え死んでた」
 ぶっちゃけ役に立ってないんだから死んでも……。
 雉丸は震えるポチを抱きかかえて歩いていた。
「大丈夫だったかいポチ?」
「怖かったよぉ」
「もう心配しらないよ、俺がそばにいるから」
 見つめ合う二人、妖しいムードぷんぷん。
 猿助は瓦礫の下敷きになった桃を探していた。
「姉貴どこだよ返事してくれよ!」
 瓦礫の山を掘り進み、そこから出ていた手を引っ張って、桃の体を釣り上げた。
 反動で猿助は桃の下敷きになって、爆乳に顔を埋めた。
 いつもだったらここで怒りの鉄拳とかが飛んできそうなのだが……。
 桃は酷く落ち込んでいた。
「アタイの物干し竿が……物干し竿が……これからどうやって洗濯物を干したらいんだい!」
 そこかっ!
 桃は決意を固めたようにビシッと立ち上がった。
「こうなったら!」
 こうなったら?
「喰ってやる!」
 なにを?
 桃は地面に落ちている八岐大蛇の尾に向かって行って、尾っぽの先にいきなりかぶりついた。生食!?
「物干し竿の敵だよ!」
 ガキッ!
 桃の歯が痺れた。何か堅いものを噛んでしまった。さすが物干し竿を折った尾。
 不思議な顔をしながら桃はその尾を調べはじめた。
 すると、なんと尾の中からズルズルと骨が出てきたではないか……って当たり前だろ!
 その骨の長さは物干し竿に匹敵するほどで、白く美しいそれはまるで鋭い剣のようであった。
 桃はその骨を持ってこう言った。
「よし決めた。今日からこれを物干し竿の代わりにするよ!」
 その桃の一連の行動を見ていた猿助は唖然とした。
「姉貴……骨を武器にするって、原始人じゃないんだからよぉ」