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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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肆之幕_スペースかぐや編


 酒呑童子がやられたという噂はジパング各地を巡り、しばらくの間は怪物も身を潜めていた。だが、今は逆に温羅や酒呑童子の二強がいなくなり、その座を巡って怪物どもは前にも増して活発に暴れている。
 そんな世の中、桃は今日ものんきに昼寝をしていた。
 猿助が桃の体を揺さぶった。
「姉貴〜、そろそろ怪物どもをドド〜ンと退治に行こうぜ、なぁ?」
「うっさいねぇ、行きたきゃあんた一人で行きゃいいだろう」
 酒呑童子を倒したあとから、桃はずっとこうな調子で宿から一歩も出ていない。簡単にいうとヒッキーだった。
 怪物退治で集めた蓄えならいくらでもある。この生活を続けようと思えばいつまでも続けられてしまう。別に遊んで暮らしても大丈夫くらい財宝を蓄え込んでいる。
 桃がいる部屋を出て猿助は隣の部屋に移動した。
 その部屋には雉丸、ポチ、かぐや、いつもの面々が揃っている。
 雉丸が猿助に尋ねる。
「桃さんの様子はどうだった?」
「いつもと同じ。あのままじゃブタになっちまうぞ」
 雉丸にハグハグされているポチが驚いた顔をした。
「人間って怠けてるとブタに変身しちゃうの!?」
 見事に全員聞き流した。
 桃に何があったのか誰にもわからない。聞いてもめんどくさそうに答えてくれない。
 ただわかるのは、酒呑童子を倒してから、ずっとあの調子ということだ。
 かぐやが何かひらめいて手を叩いた。
「きっとアレは恋だわ!」
「それはみんなで後押ししなくてはいけませんわね!」
 と、声をあげながら部屋に飛び込んできたのは鈴鹿だった。
 鈴鹿は部屋に入って来るなり猿助に抱きついて頬をスリスリ。
「ダーリンの失恋の痛手は妾が癒やして差し上げますわ」
「失恋なんかしてねーよ!」
 ムキになって猿助は怒った。
 ラブラブハートのカップルが二組。
 雉丸は酒呑童子の一軒以来、なぜかポチにたいする溺愛っぷりが目に見えて激しくなった。
 一人取り残されているかぐやはぼーっと窓の外を眺め……眺め……瞳孔を開いた。
「何アレっ!」
 窓の外に広がる火の海。
 京の都が華やかに滅亡の危機にあった。
 鈴鹿がポンと手を叩いて思い出した。
「あ、そういえば、そのことでここに駆けつけたのでしたわ。酒呑童子が倒されたことを知った父親の八面大王が、八岐大蛇に変化して京の都に攻め入ってきましたの!」
 早く言えよっ!
 すぐに立ち上がった雉丸を心配そうな瞳でポチが覗き込んだ。
「兄さま、まだ無理しちゃダメだよぉ」
「大丈夫だよ、もうだいぶ傷も癒えたから」
 酒呑童子の鋸刀でやられた傷がまだ尾を引いていたのだ。
 ショットガンを背負って準備をはじめる雉丸を鈴鹿が見つめた。
「怪我かご病気をなされておりますの? だったら妾に申しつけてくださればよかったのに、ダーリンのお友達ならいくらでも治して差し上げますのに」
「やむを得ない状況でなけらば鬼の手は借りない。俺が先に行く、サルは桃さんを呼んでこい」
 準備を整えた雉丸は駆け足で部屋を出て行った。
 すぐに猿助も隣の部屋に駆け込んだ。
「姉貴! 起きろってば、恐怖の大王が都に攻めて来たんだぜ!」
「アタイには関係ないね」
「関係なかないだろ、ここもいつぶっ潰されるかわかんねーだろ!」
「そんときゃそんとき。そのときになったら考えるとするよ。ふあぁ〜、これからまた一眠りすんだから邪魔すんじゃないよ」
「クソッ、勝手にしやがれ!」
 猿助は部屋のドアを力任せに閉めて外に出た。
 部屋の外ではポチとかぐやが待っていた。
 ポチは心配そうな瞳をしている。
「姐御さんどうだったのぉ?」
「あんなの桃の姉貴なんかじゃねーよ、付いてこられても足手まといにんるだけだ。ほらっ行くぞ!」
 猿助はポチとかぐやの袖を掴んで無理矢理歩きはじめた。
 かぐやは足を踏ん張って抵抗する。
「なんでかぐやまで行かなきゃなんないのよ!」
 でも結局、引きずられて行った。

 すでに都中から陰陽師や武士まで、戦える者なら誰でも集められ、八岐大蛇との攻防戦を繰り広げていた。
 先陣を切っているのは安倍晴明だ。
「とにかく近づいては危険だ、遠くから矢を放て!」
 整列する弓矢隊から一斉に矢が放たれた。
 しかし、矢はすべて堅い鱗に弾かれ地に落ちた。これでは爪楊枝ほどの攻撃力もない。
 晴明は使役している式神を呼び出した。
「出でよ前鬼後鬼!」
 すると頭に角を生やした二人の少女が現れた。双子のようで見分けるのは難しい。
 晴明が前鬼後鬼に命じる。
「八岐大蛇の進撃を防ぐんだ。最低でも帝様の元に近づけてはならぬ!」
 前鬼後鬼は顔を見合わせ互いに抱き合った。
「いやぁ〜ん、あんな大怪獣となんて戦えないですぅ」
「戦っても負けちゃうもんねぇ、わたしたち」
 うんうんと前鬼後鬼は示し合わせた。
 役立たずだ!
 だからと言って前鬼後鬼を責めることはできない。相手が悪すぎるのだ。
 八つの頭と尾を持ち、背中には苔や草木が生えている蛇龍。その背は都のどの建物よりも高く、尾は川のように長く先がどこにあるのかわからないほどだ。
 その巨体で歩くこと自体ですでに凶器となる。
 雉丸は鞭のように撓る尾の一本を駆け登っていた。
 木々が生えた背はまるで山そのもの。登山道に迷い込んでしまったような錯覚に陥る。
 一本の頭まで登り詰めた雉丸は大声をあげた。
「八面大王、俺が誰だかわかるか!」
 すると地鳴りのような声が返ってきた。
『誰が我の名を呼ぶのは?』
「貴様の不肖の息子だ。呉葉の子だと言えばわかるか!」
『ウォォォォン!』
 突然、八岐大蛇は首を大きく振り乱し、振り飛ばされまいと雉丸はしがみつく。
 遠くから誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「暴れるなよ蛇野郎!」
 八つある別の頭に乗っていた猿助だった。
 さらに別の頭にはポチが乗っていた。
「うわぁ〜ん怖いよぉ、高いの怖いぃ、揺れるの怖いぃ〜」
 さらにさらに別の首にはかぐやが必死にしがみついていた。
「てかあんたらなんで別の首に乗ってんのよ。他人の体の上ではぐれるなんて聞いたことないわボケッ!」
 さらにさらにさらに鈴鹿もいた。
「ダーリン、すぐにそちらへ参ります!」
 大通連に乗った鈴鹿は宙を飛び、もっとも移動効率がよかった。
 で、ついでにもう一人。
「ぼ、僕を人質に取ったつもりか、この卑怯者めっ!」
 晴明が巨大な歯に着物を挟まれて宙ぶらりんだった。
 嗚呼、無力だ。
 人間というのはなんてちっぽけなものなのだろう……大怪獣に勝てるかボケッ!
 もうダメだ、世界の終わり世紀末だ。
 八岐大蛇は口から炎まで吐きやがってくれてます。
 都は死の劫火に焼かれようとしていた。
 この世にも恐ろしい怪物に対抗する術はあるのか!?
 陰陽師や武士たちの間を縫って紫の着物を着た女が前に出た。
「嗚呼、なんと嘆かわしいことじゃ。それでも我が息子かえ?」
「ママ!?」
 叫んだのは晴明だった。
 樟葉は臆することなく八岐大蛇に向かい、体から金色のミサイルを発射した。
「黄金飛翔破(おうごんひしょうは)!」
 九つの誘導ミサイルは次々と八岐大蛇の首を追撃して、残りの一発はカンチョーを決めた!
『ウォォォォン!』