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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 雉丸は鬼を捨てたかった。
 鬼の子と知って桃はどう思うか、雉丸はゆっくりと桃に顔を向けた。
「桃さん、酒呑童子を倒したあとに俺も倒しますか?」
「あんたべつに財宝とか貯め込んでないだろう?」
「あはは、そうですね」
 それだけで十分だった。これからも何も変わらず雉丸は桃についていく。
 雉丸はリボルバーを抜いて銃口を酒呑童子に向けた。
 その行為に酒呑童子は八重歯を覗かせ笑った。
「弟を殺すのか?」
「その点は鬼の血を引く外道だからな」
 その口調には棘がある。先ほどまでの説明は酒呑童子ではなく、桃に聞かせるためのもの。今の言葉は完全に酒呑童子へ向けられた言葉だった。
 桃はリボルバーの前に出た。
「でも半分は人間だろう。こいつの相手はアタイがするよ、妻になるって約束もあるしね」
「桃さん……」
 桃と酒呑童子が退治する。それを見守る雉丸。
 そして、第四の影が現れた。
「ならその銃使いの相手はアタクシがしようかしらぁん?」
 鉤爪を鳴らす茨木童子。
 さすがは酒呑童子の腹心、毒に完全に屈することなく復活したのだ。
 さらに五人目の声が響き渡った。
「己らさっきから叫んでるの聞こえんのかいボケッ!」
 磔にされたまま、喉を枯らしているかぐやだった。
 どうやら何時間もの間、ずっとそのまま放置されていたらしい。しかも、本人いわく、叫んで助けを呼んでいたらしい。哀れだ。
 でも、やっぱり放置プレイ。
 雉丸の銃弾を鉤爪で弾き返す運動能力を見せる茨木童子。
 桃の物干し竿を八重歯を覗かせ笑いながら受ける酒呑童子。
 どちらの鬼も手強い。
 熾烈な激戦が続く。
 茨木童子のかわした流れ弾が酒呑童子に飛んだ。
「酒呑童子さま!」
「案ずるな!」
 キン!
 金属音を鳴り響かせながら鋸刀の平で銃弾を受けた。
 銃弾に気を取られていた酒呑童子にすかさず物干し竿が振られた。
 物干し竿を腹に喰らって後方に大きく飛んだ酒呑童子。腹の肉が少し抉れていた。
「ただの竹竿じゃねぇな」
「気合いが違うのさ」
 桃の物干し竿を扱えば、それは強靱な武器となる。だが、やはり物干し竿。刃であれば今の一撃で酒呑童子は真っ二つになっていた筈。
「どうして竹槍なんかで戦ってる?」
 当然の質問を酒呑童子は投げかけた。
「竹槍じゃなくてウチから持ってきた物干し竿だよ」
「あははっ、物干し竿なんかに負けたら末代までの恥だな」
「仕方ないだろう、先端恐怖症だから刃物が扱えないんだよ!」
 意外な弱点発覚だ!
 酒呑童子にも弱点はないのだろうか?
 代わりに雉丸は茨木童子の弱点を見出していた。それは酒呑童子の足を引っ張ることになるかもしれない。
 酒呑童子が桃に仕掛けた瞬間、その背中に雉丸は銃弾を放った。すぐさま茨木童子は酒呑童子の前に立って銃弾を自ら受けた。
「くっ……外道め」
 銃弾は茨木童子の手に握られていた。
 大きく穴の開いた手のひら。銃弾はその先の甲を覆う鉤爪の一部の金属で止まっていた。
 茨木童子は命を投げ打って酒呑童子を庇う。
 ならば――。
 茨木童子は桃に向かって走り出した。
「毒には毒よっ!」
 桃を庇おうと雉丸が駆ける。
「桃さん!」
 ショットガンで鉤爪を受けた。だが、すぐに茨木童子は天井高く飛翔し、背後から現れた酒呑童子が鋸刀を薙ぎ払った。
 すぐに後ろに飛んだ雉丸は桃に受け止められながら、ショットガンを空中の茨木童子に向かって放った。
 血を口から噴く茨木童子。その腹を貫通した弾丸が天井を穿つ。
 地に落ちる茨木童子を酒呑童子が受け止めた。
 同じように雉丸を受け止めている桃。
「大丈夫かい雉丸?」
「半分鬼ですから、生命力には自信が……俺はいいですから酒呑童子を……」
 雉丸の腹は見るも無惨に引き裂かれていた。
 桃は雉丸を床に寝かせて物干し竿を力強く握った。
「うぉぉぉぉっ!」
 天高い位置から物干し竿が振り下ろされた。
 酒呑童子は茨木童子を抱きかかえたまま鋸刀で受けた。
 しかし、刹那――鋸刀が折れた。
 間を置かずに酒呑童子は鋸刀を捨てて、茨木童子を肩に担いで逃げ出した。
「逃げるなんて男の恥だが、仲間の命には代えられないんでな!」
 疾風のごとく逃げ去る酒呑童子たち。床に倒れる雉丸は無言でその背中を指差した。桃は深く頷き雉丸を置いて酒呑童子たちを追った。
 そして、もう一人残されたどっかの誰かさんが叫ぶ。
「だからかぐやを放置すんなボケッ!」
 虚しく木霊した。

 城内を飛び出し、険しい崖道を逃げる影を追う桃。すでに空は夕暮れから夜に移り変わろうとしていた。
 東の空から徐々に闇が覆いはじめる。
 酒呑童子たちの他に前方にいくつかの影が見えた。
 猿助、ポチ、色取り取りのふんどしの鬼たち。
 その真横を見向きもせずに酒呑童子たちが駆け抜け、猿助たちは唖然とした。
 さらにその後から桃がやってくる。
「てめぇら、なんでまだここにいんのさ!」
 すぐ言わないと殺される緊迫感。
 猿助は早口で三秒以内にまとめた。
「ねーちゃんたちは逃がせたけど、こいつらが俺らの邪魔して!」
 赤、青、緑、黒……黄色が欠員。未だに全員がそろったところを見たことがない。
 紅一点の桃が物干し竿を烈風のごとく振りました。
 鬼レンジャーたちが宙にぶっ飛ばされた。ついでに猿助とポチまで飛んだ。
「なんでオレまでーっ!」
「うわぁ〜ん、高いの怖いよぉ」
 今はそれどころではないので桃は急いで酒呑童子たちを追った。
 そして、ついに断崖絶壁で桃は酒呑童子たちを追い詰めた。
 地平線の彼方では陽が沈もうとしている。
 酒呑童子は茨木童子を地面に下ろし、丸腰のまま仁王立ちした。
「武器を持たねぇオレ様とやるか?」
「武器ならてめぇの拳があるだろう?」
「そりゃそうだ」
 八重歯を覗かせ桃に立ち向かおうとする酒呑童子の足に茨木童子が抱きついた。
「お待ちください、アタクシが戦います」
 穴の開いた腹を押さえながら茨木童子が立ち上がった。その眼は鋭く闘志は消えていない。しかし、躰がよろめいた。
 足のもつれた茨木童子を酒呑童子が抱きかかえた。
 その様子を見ていた桃は言う。
「なんなら二人で掛かっておいで」
 酒呑童子は首を横に振った。
「妻にするって約束がまだあんだろ。二人ががりで倒しても意味がねぇ」
 そう言って、酒呑童子は抱きかかえている茨木童子の手から鉤爪を奪った。
「お前の魂を借りるぜ」
「……酒呑童子さま」
 茨木童子にはもう戦う余力は残っていない。
 どちらも陽が沈む前に決着をつける気だった。
 漲る闘志。
 この一撃にすべてを込める。
 先に仕掛けるのは誰か?
 戦いの合図は何か?
 対峙する猛者は互いに笑った。
「「ウォォォォッ!!」」
 怒号は大地を震わせ、その声は風に乗ってどこまでも鳴り響いた。
 一時、刻は忘却された。
 その刻を戻したのは茨木童子が呑んだ息の音。
 刹那――酒呑童子は八重歯を覗かせ笑った。
「オレ様の負けだ」
 その腹を貫いている長く伸びた竹。
 滴る血が竹を握る桃の手まで伝わった。
 憎悪に支配された茨木童子が、地を這い蹲ってでも桃に襲いかかろうとした。
「殺してやる!」