小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

新説御伽草子~桃ねーちゃん!

INDEX|24ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

「お、おう!」
 猿助はコクコクとうなずいた。

 呉葉を連れた雉丸が宿屋に戻ってきた。
 さっそく呉葉は病室に入り桃の容態を診ようとしたが、その前にまずは猿助の前に立った。
「まずはキミからよ。いち、にの、さん!」
 と、同時に呉葉は猿助の頬に張られていた絆創膏を剥がした。
「いてっ!」
「はい、痛いの痛いの飛んでいけーっ!」
 呉葉は猿助の傷に檜扇を翳した。すると鉤爪で抉られた傷がパッと消えた。
 次に呉葉は同じ部屋で寝ているポチの容体を診た。
 腕に巻かれていた包帯を取り、また同じように檜扇を翳した。
「痛いの痛いの飛んでいけーっ!」
 するとポチの腕にあった鉤爪の傷も消えてしまった。けれど、まだポチは目を覚まさない。
 呉葉は心配を拭う笑みを浮かべた。
「この子はちょっと疲れて眠っているだけだから大丈夫。しばらくすれば目を覚ますわ」
 最後に残されたのは桃だった。
 すでに桃の傷は鈴鹿が完治させている。問題は覚めぬ眠り。
 呉葉は桃の傍らに腰を下ろし、やはり檜扇を翳した。つま先から頭の先まで、ゆっくりと檜扇を動かした。
 桃は目覚めない。
 すでに呉葉の能力は猿助とポチで実証されている。その力を持ってしても目覚めない。
 呉葉は少しも険しい顔を見せず、穏やかな表情で桃の手を握った。
「とても冷たいわね。まるで死んでいるよう」
 昨晩までは苦しそうな顔をして大量の汗を掻いていた桃だったが?
 ずっと看病をしていたかぐやが説明する。
「今朝方くらいから急に体温が下がりはじめて。それだけじゃないの、見て、なんだか年取ったように見えない?」
 桃の目尻や口元に見える皺。呉葉の握る手もカサカサでやせ細っている。一〇も二〇も年老いたように見える。
 そんな年老いた桃を見て一番ショックだったのは猿助だった。
「姉貴のナイスボディが失われるなんて、オレは絶対にイヤだぜ!」
 あの爆乳も少し縮み垂れはじめてしまっている。
 元から白銀の髪の桃だが、今はそれがただの白髪にしか見えない。
 呉葉は結論を出したようにうなずいた。
「あなたたちにどう説明するべきか、生命の源が断たれているというのかしら。全身を巡る血管のようなものが、切断されていると言えばわかるかしら?」
 だから急速に年老いているというのか?
 尋ねたいのはそれを治療する方法だ。
 雉丸は真摯な瞳で呉葉を見据えた。
「どうすればいいのですか?」
「そうね、未来の花嫁さんだものね、必ず助けなくていけないわ」
 その言葉に聞き捨てならない一匹が即座に反応した。
「未来の花嫁って何だよ!?」
 猿助が噛みついた。
 すぐに雉丸が猿助の口を鷲づかみにした。
「話がややこしくなるから黙ってろ。母上、それでどうすれば桃さんを治せるのですか?」
「生命の源を注入すれば治るのだけれど……難しいわね。それは死者蘇生のようなもの、たしか不老長寿を研究している仙人がいると聞いたことがあるけれど、その人ならもしかして。名前はたしか……ハゲ仙人?」
「ハゲ仙人とはコレのことでしょうか?」
 その声は鈴鹿のものだった。
 鈴鹿はハゲ頭の仙人の首根っこを掴んで前に突きだした。
「ヤッホー、おぬしら元気にしとったか?」
 ハゲ仙人じゃなくて亀仙人だった。
 猿助はどっと疲れたようにため息を吐いた。
「こいつ……生きてたのかよ、しぶといな」
 殴る蹴るの挙げ句、滝壺に落とされて死んだと思われた亀仙人。図太い生命力で見事復活していた。
 亀仙人は誇らしげに笑って懐から何かを取り出した。
「ワシは毎日これを食ってるでの、精力旺盛若いもんには負けはせん!」
 それは〈桃〉だった。瑞々しくとても美味そうだ。
 でも、だからその〈桃〉がどーしたんだって話だった。
 しかし、この〈桃〉はただの桃ではないのだ!
 亀仙人は〈桃〉を天高く掲げた。
「これはワシが人生のすべてを投げ打って開発しておる不老長寿の〈桃〉(失敗作)じゃ!」
 失敗作かよっ!
 期待が一気に谷底に落とされた気分だ。
 亀仙人はしみじみと語りはじめる。
「あれは熱い夏の日のことじゃったか。海辺でガキんちょに苛められてる亀を助けてやったんだが……」
 撃鉄を起こす音がして、雉丸のリボルバーの銃口がハゲの眉間に突き付けられていた。
「長くなるなら結論から言え」
「まあまあそう焦るな。話を割愛すると、唯一の成功作の不老長寿の〈桃〉を作ったワシは、それを食おうと川で洗っておったら、なんたる不幸か〈桃〉を川に流してしまって、探せど探せど見つからず、ワシは首を吊って死のうとまで考えたのじゃが……」
 猿助までもクナイを握ってハゲに突き刺そうとしていた。
「てめぇの身の上話はいいんだよ、姉貴を治せるの治せないのか言えよ!」
「失敗作といえど、これはワシが作ったものじゃぞ。たちどころに精力旺盛になるわい!」
 それだけ聞けば結構です。
 グサっとクナイがハゲに刺さった。
「ぎゃぁぁぁっ!」
 頭からピューピュー血を噴きながら亀仙人は転げ回った。でも、すぐに呉葉が『痛いの痛いの飛んでいけーっ!』と治してしまった。
 さっそく〈桃〉の皮を剥き、食べやすく一口に切ると、かぐやが桃の口に運んだ。
 口の中に落とされた〈桃〉は、蕩けてるように喉の底に落ちていった。
 微かに桃の瞼が痙攣した。
 張りを戻して弾む爆乳。
 仁王立ちする引き締まった美脚。
 脂の乗った尻に食い込むふんどしTバック!
 桃は両手を天井高く伸ばした。
「ふわぁ〜よく寝た」
 首をポキポキッと鳴らして桃はしばらく動きを止めた。
 見知らぬ女が一人。
「誰だてめぇ!」
「雉丸の母です」
 もう一人の見知る女。
「てめぇがなんで!?」
「妾が貴女をお助けしたと言っても過言ではございませんのよ」
 呉葉と鈴鹿とご対面。
 桃は鈴鹿に殴りかかろうとしたが、それを必死になって雉丸と猿助が止めた。
 そんなこともありつつ、暴力沙汰にならずに示談交渉で一段落した。
 そして、話は茨木童子に及び、桃は豪傑に笑った。
「その喧嘩、買ってやろうじゃないか!」
 こうして桃たちの次の目的地が決まった。
 いざ、酒呑童子の棲む大江山へ!

 鉄の城門の前で黒いふんどし鬼が門番をしていた。
「なんだお前たち、酒呑童子さまの城にノコノコやってくるとは良い度胸だな」
 口元を布で隠す爆乳ベリーダンサーが前に出るのを制止して、横にいたマジシャンハットの男が眼鏡を直しながら口を開いた。
「私たちは旅芸人です。道に迷ってここにたどり着いてしまったのです」
 雉丸の声だった。
 バニーガールの格好をした不機嫌そうなかぐやもいる。となると、ベリーダンサーは桃だろう。
 扮装した三人。あとは荷車に積まれた大きな葛籠がいくつかあった。
 鬼は桃の体を舐め回すように視姦した。
「女とガキは召使いとして生かしてやろう。だが、男はここで血祭りにあげてくれる!」
 緊迫した空気が流れ、雉丸はリボルバーを隠しているマジシャンハットに手をかける寸前だった。
 だが、ここに新たな鬼が現れ状況は一変した。
「お待ち!」
 紅梅のきながしを着た茨木童子だった。