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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 それも今は昔、現在では幼少期の名?呉葉?に名を戻し、ひっそりと山の奥で暮らし、時折里に降りては檜扇を使って人々の病を治していた。
 呉葉は驚いた表情をして息子の帰りを喜んだ。
「まあ、よく返ってきたわね金ちゃん!」
「その名はとうの昔に捨てました。今は雉丸と名乗っています。あと、それは俺じゃなくて家の大黒柱ですよ」
「あらまあ!」
 呉葉は抱きしめていた大黒柱から恥ずかしそうに離れた。
「母上……視力が悪くなられたのですか?」
「ちっとも、両目とも2・0よ。金ちゃんが帰ってきてくれたから、すっかり舞い上がってしまってそれで」
 そーゆー問題か?
 今のところどー見ても激しくボケた母ですが?
 呉葉は雉丸に座布団を勧め、囲炉裏で暖めていた茶釜から湯飲みに茶を注いだ。
「どうぞ、粗茶ですが」
「母上、それは客人にいう台詞では?」
「まあやだ、久しぶりの来訪者だから、すっかりそういう気分でお茶を出しちゃったわ!」
「オレは息子です」
 大丈夫かこの母親?
 呉葉は雉丸という息子がいる割には若い。けれど、美貌は保っていても、その物腰や背を丸めた姿は年寄りのようだった。
「母上……また老けましたか?」
「いやもぉ、そんなこと言わないでよぉ。これでも若いころはブイブイ言わせてたんだからぁ」
「その話、いつもなさるんですが本当ですか?」
 呉葉は雉丸が物心ついたときからこんな感じだった。
「金ちゃんに嘘ついてどうするのよ。これでも母さんレディースの総長だったんだから、他にも盗賊団の頭も掛け持ちしていたし、悪いことをいっぱいしてきたのよ。あのころは若かったわ……若気の至りだったわね、特にあんな男に惚れたとことか」
 話を聞いていた雉丸の顔つきが急に暗くなった。それを知ってから知らずか呉葉はフォローした。
「でもあんな男だったけど、あの男との間に金ちゃんが生まれてきてくれたことは、本当に心から嬉しいことなのよ」
「オレは生んで欲しいなんて頼んだ覚えありませんが」
「そんな悲しいこと言わないで金ちゃん」
「だからその名前で呼ぶのは……っ!?」
 急に雉丸は母の胸に抱き寄せられた。
 呉葉は雉丸を強く抱きしめ、その頭を優しく撫でた。
「ごめんなさい……わたしのせいで……あなたはこんな……」
 優しく温かいその指先は、髪の間に残る二つの傷跡を撫でていた。
 雉丸は抵抗せず、ただ深く息をつき、静かに静かにこう呟いた。
「けれど母上は、代わりに?人間?の耳をつけてくれました」
 雉丸はゆっくりと呉葉の体を突き放し、静かに立ち上がってしっかりと呉葉の顔を見据えた。
「この力を必要としている人がいます。母上が鬼の元で学んだ魔導医学の知識が必要なんです!」
「その人は金ちゃんにとって大切な人なの?」
 雉丸は無言でうなずいた。
 真面目な空気が一変、呉葉は両手を広げて喜んだ。
「まさかその人、金ちゃんの彼女!? うっそー、まさか金ちゃんに彼女ができるなんて、大人になったのねぇ。ママ嬉しいわぁ!」
「……た、ただの命の恩人ですよ! 今はその人に仕えています。女性なのは確かですけど」
「でも金ちゃんその人に気があるんでしょ? 恋の相談ならいくらでも乗っちゃうわよ。けど、ママは男の人とうまくいったためしがないけどね♪」
 笑顔爆発の呉葉。
 どうやったらこの母から雉丸が生まれたのだろうか?
 むしろ反面教師なのか。
 呉葉は恋人のように雉丸の腕に自分の腕を回した。
「さっ、早く未来の花嫁さんのところへレッツゴー!」
「だから、オレと桃さんはそんな関係じゃなくてですね……」
「いいからいいから、恥ずかしがらないで金ちゃん♪」
「だから、その名前で呼ぶのもやめてくださいって言ってるじゃないですか!」
「あー、そういえば話は変わるんだけど」
 変わるんかい!
 ものすごいマイペースだ。
「なんでしょうか?」
 ため息混じりに雉丸が尋ねると、急に呉葉は真剣な顔をした。
「わたし世の中のことにうといんだけど、ちょっと悪い噂を聞いちゃったのよね」
「どんなでしょうか?」
「最近、酒呑童子というガキ大将が暴れてるって聞いたんだけど……その酒呑童子って子、もしかして……」

 四日目の朝、未だに桃は目を覚まさない。
 雉丸も帰還せず、鈴鹿も姿を消してしまった。
 居ても立ってもいられない猿助だったが、今の自分のできることなどなく歯痒い気持ちをしていた。
 隣の部屋では今日もかぐやが桃の世話をしている。
 猿助がぼーっと窓の外を眺めていると、後ろからポチが声をかけてきた。
「サルたんトランプしようよぉ」
「うっせぇなぁ、一人でやってろよー」
「一人じゃできないもん」
「何かできることあっだろ」
 プイっとポチは顔を膨らませてそっぽを向いてしまった。そして、とりあえず神経衰弱をはじめた。
 しばらくしてノックもせずに誰かが部屋に入ってきた。
「この部屋から強い邪気を感じる……ってお前らかっ!」
 烏帽子をかぶった見た目ガキなのに二二歳の晴明だった。
 猿助はあからさまに嫌そう顔をした。
「勝手に人様の部屋に入ってくんじゃねぇよ」
「君たち僕より身分が下だろ。しかも、鈴鹿御前を取り逃がして、あの野蛮人は重傷を負わされて寝込んでるそうじゃないか。まったく口ほどにもないよね」
 嫌みったらしい言い方をされて、猿助は腹の底から怒りを吐き出す。
「だったらてめぇで鈴鹿を退治してくればいいだろ!」
「それができたら苦労しないよ。僕にはこの京の都を守るという義務があるからね、都の外に一歩も出ることができないんだよ」
「出たくないのは、ただ怖いだけだろうが」
「耳も悪いのかい? この都を守る義務があるんだよ。だからこうしてここに出向いてるんじゃないか、バカだなぁ」
 二人がいがみ合ってる中、神経衰弱をやっていたポチが両手を挙げて喜んだ。
「やったー、一回も間違えないでクリアできたよ!」
 マイペースだった。
 このマイペースさを見て猿助も晴明も気が抜けてしまった。
 気を取り直して晴明は部屋を見渡しはじめた。
「この部屋から邪気を感じるんだ」
「てめぇの腹ん中からだろ」
 吐き捨てた猿助を無視して晴明はポチのほうに近づいていった。
「君の近くから邪気を感じるな」
 どう見てもポチは邪気ではなく無邪気の塊だ。
 ポチは瞳を丸くして首を傾げた。
「う〜ん、もしかして鈴鹿たんに預かってるこれですかぁ?」
 と、ポチが取り出したのは唐櫃だった。
 中を開けると、のぞき込んだ猿助が嗚咽を漏らした。
「キモチわりぃ」
 晴明も眉をひそめた。
「腕だな」
 そう、唐櫃に入っていたのは切断された腕だった。しかも鉤爪のオプション付きだ。
 ポチは大きくうなずいた。
「うん、鈴鹿たんが持っててって言ったんのぉ。取り返しにくるかもしれないからって」
 さらに晴明は眉をひそめて難しい顔をした。
「先ほどから名を呼んでいるいる?鈴鹿たん?とは?鈴鹿御前?のことか?」
「うん、ボクたちのお友達になったんだよぉ」
「…………」
 一瞬、晴明は動きを止めて、すぐに猿助の首根っこ掴んで部屋の隅に拉致した。
「どういうことかな、オサルくん?」