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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 その一瞬、オカマはポチに気を取られてしまった。
 今しかない!
 大通連と小通連が宙を舞う。
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
 醜く悲痛な叫びが月夜に木霊した。
 鉤爪のついた腕が橋に落ちた。
 血が噴き上げる腕を押さえてオカマがよろめく。
「おのれ、今日のところは退散してやるわ。でも覚えておきなさい、アタクシの名は酒呑童子さまの腹心――茨木(いばらぎ)童子よ。絶対に復讐してやるからね!」
 捨て台詞を吐いて茨木童子は闇の中に姿を消した――片腕を残して。
 ポチが瞳をウルウルさせながら猿助に抱きついた。
「うぁ〜ん、怖かったよぉ。サルたんひとりじゃやっぱり心配だからって、かぐやたんに宿屋から放り出されたんだよっ。それでね、それでね、ここまで来てみたらなんかスゴイことになってたし。うあ〜っ、そういえばなんでここに鈴鹿たんまでいるのっ!?」
「ダーリンの命を救ったのは妾なのですよ」
「えっ、じゃあ鈴鹿たんって本当はいい人なんでしゅかぁ?」
「もとより無駄な戦いはしたくありませんことよ。最初に刃を向けたのはそちら、そのあとは妾からダーリンを奪おうとしたから仕方なく」
 そのダーリンは真っ白な灰になっている。
 鈴鹿は猿助を優しく抱き寄せ、頬に軽く口づけをした。
「ダーリン、起きてくださいまし」
「……、……、……うわっ!」
 猿助は驚いて飛び起きた。
「て、ててててめぇ、オレに何するつもりだ」
「んもぉ、ダーリンまで。茨木童子とかいうオカマを追い払い、ダーリンの命をお救いいたのは妾なのですよ?」
「へっ?」
 目を丸くして口をあんぐり開ける猿助。
 ポチもうなずいた。
「うん、ボクも見てたけど、鈴鹿たんが頑張ったんだよっ!」
「……そうなんか」
 うつむいて考え込む猿助。
 すぐに顔を上げた。
「けどよ、お前のせいで姉貴は今も死にそうなんだぞ。どう責任取ってくれんだよ!」
「あの女……まだ生きているのですか。なかなかしぶとい」
「まだってなんだよ、絶対死なせるもんか!」
「妖刀大通連に受けた一撃。そうたやすく治るものではありませんわ。あの手応え、絶対に仕留めたと思ったのに、生きてるほうが不思議ですわね」
「なんだよその言い方。お前なんか大っ嫌いだ!」
 鈴鹿ショック!
 粗塩を塗った矢を乱れ打ちで心に喰らった。
 明日にも世界は滅びますみたいなくらい絶望を背負う鈴鹿。あまりのショックに四つんばいのまま立ち直れない。
 ポチがしゃがみ込んで鈴鹿の顔をのぞき込む。
「元気だしてっ、ファイト!」
「……もう妾は生きていく希望もありませんわ」
 鈴鹿はすっかり老け込んだ顔をゆっくりと上げて、憂いを含んだ瞳で猿助をしっかりと見つめ、こう尋ねたのだった。
「あの女はダーリンにとって……そんなに大切な人なのですか?」
「そうだよ、大切に決まってるだろ!」
「妾よりもですか?」
「…………」
 この返答には困った。答えは決まっていたが、それを言ったときに鈴鹿が何をしでかすかわからなかった。
 鈴鹿はさらに口を開く。
「……それが答えですのでね。仕方がありません、ダーリンがそこまで想う人なのであれば助けなければなりませんわね」
 ビシッとシャキッと鈴鹿は立ち上がった。
「でも妾はあきらめたりしませんから、こうやって乙女は大人の階段を登っていくのですのよ。たとえダーリンに好きな人がいようと、いつかは絶対に振り向かせてみせます!」
 鈴鹿は涙を拭いて歩き出した。
「さあ、あの女のところへ案内してください」
 すっかり立ち直った鈴鹿。
 猿助はなんだか置いてけぼりだった。

 病室に現れた鈴鹿を見たかぐやの第一声は――。
「うわっ、なんでいるの?」
 ごく当たり前の反応だった。
「その女を仕方なく治しに参りました」
 鈴鹿はそう言ってふとんで寝込む桃の横に正座すると、両腰に下げていた二振りの妖刀を鞘から抜いた。
 それを見た猿助は驚いて飛びかかろうとした。
「やっぱり止めを刺す気だな!」
 鈴鹿は哀しそうな顔をした。
「妾は情けない。いくら愛した人とはいえ、ここまで信用されていないとは」
 殺気などどこにもない。それに気づいた猿助は飛びかかるのをやめた。
 気を取り直して鈴鹿は抜いた大通連と小通連を、背中から胸まで貫通した桃の傷口にかざした。
「この妖刀は元々大嶽丸という鬼から奪ったものなのですが……あいつったら、本当にキモイいしウザイし、ストーカーみたいで本当に困って……という話は置いておいて」
 ストーカーなのはお前も同じだろ?
「この妖刀は生命の源、大嶽丸の命の分身と言っても良いものなのですのよ。そして、生命漲るこの妖刀を使えば傷などたやすく治るのです」
 二振りの妖刀が淡く輝きはじめ、蛍火のような光が桃の傷口に舞い落ちる。
 すると、なんと傷口は見る見るうちに塞がってしまったではないか!?
 鈴鹿の言うことに偽りはなかったようだ。
 しかし、傷が消えても桃はいっこうに目を覚ます様子はない。
「おかしいですわね」
 と、鈴鹿は呟いた。
 見るからに酷かった外傷は消えた。そして、桃の表情は穏やかに戻り、大量に掻いていた汗も引いている。
 それでも桃は目を覚まさないのだ。
 猿助は鈴鹿につかみかかるのをグッと押さえて口を開いた。
「どういうことだよ?」
「外傷は完璧に治しましたのよ。けれど……妾にもわからない症状ですわ」
「てめぇ!」
 やっぱり感情を抑えられず猿助は鈴鹿に掴みかかってしまった。
 しかし、軽くあしらわれ地面に叩きつけられてしまった。
「積極的なのは妾も嬉しいのですが、皆が見ている前で恥ずかしい」
「てめぇなに勘違いしてんだよ!」
「わかってますわよ。約束はちゃんとお守りいたします」
 鈴鹿は背を向けて部屋を出て行こうとした。
 猿助が呼び止める。
「どこいくんだよ!」
「外に止めてあった光輪車は返してもらいます。次にお会いするときは治療法を見つけたとき」
 部屋を出て行く寸前、鈴鹿は振り返って微笑んだ。
「妾がいなくても寂しがらないでねダーリン♪」
 こうして鈴鹿は部屋を出て行った。
「寂しかなんかねーよ」
 吐き捨てた猿助の脇腹をかぐやが小突いた。
「鈴鹿お姉様に惚れた?」
「惚れてねーよ、だってあいつ鬼なんだぜ!」
「ふ〜ん」
「ふ〜んじゃねーよ。オレはあんな奴より、この太ももが……」
 そう言って猿助は桃の太ももに頬をスリスリした。今だからできる暴挙だ。桃は起きてたら八つ裂きにされるだけではすまされまい。
 だが、そんな猿助に鉄槌が下った。
「エロザルはさっさと出てけっ!」
 かぐやにケツを蹴っ飛ばされて、猿助は部屋を追い出されたのだった。

 山里からさらに山深い場所に、その隠れ屋は静かに佇んでいた。
 雉丸は玄関を静かに開け、深々とお辞儀をした。
「ただいま戻りました母上」
 家の中では若い女が一人で茶を啜っていた。母と呼ばれた割には、その容貌は雉丸のような大きな子がいるようには見えず、まだまだ若く美貌に溢れた母だった。
 鬼女?紅葉?の名を聞き、この地方で震え上がらぬ者はいないだろう。多くの妖術を操り、多く配下を従え、多くの略奪や多くの人を殺した。