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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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「チクショー、周りは敵ばっかりだわ。でも、いつかきっと……王子様が迎えに!」
「来るわけないだろうボケッ!」
 かぐやは桃に物干し竿で頭を殴られた。
 でも、今度はグッと怒りをこらえた。
「いつか……絶対に……復讐したる……」
 頑張れかぐや、負けるかぐや!
 牢屋という閉鎖空間。
 遠くから楽しげな音が聞こえてくるし、今度は美味しそうな匂いまで漂ってきた。
 腹が立つ!
 桃は格子に回し蹴りを放った。
「飯くらい喰わせろ!」
 格子は激しく揺れるが、やっぱり壊すことは不可能だ。騒いでもおなかが空くだけだろう。
 中からの脱出は不可能に思える。やはり外からの助けが……。
 時間が流れ、桃たちがぐったりしていると、人影が壁に映るのが見えた。
 響き渡る足音。
 牢屋の前に現れたのは猿助と鈴鹿だった。しかも、鈴鹿は猿助に抱きついている。どう見てもラブラブです、ごちそうさま。
 それを見た桃は怒り狂って格子に飛びかかった。
「てめぇ貴様! 寝返ったな!!」
 激しい怒号に猿助は怯えた。
「ひぇ〜っ、ちが、違うってば……成り行きで……」
 尋常ではない怯え方をする猿助の顔を鈴鹿がのぞき込んだ。
「この女がそんなに怖いのですか? だったら今すぐ殺してしまいましょう!」
 殺すなんてとんでもない。そんなことしたら絶対に末代まで祟られる。
 慌てて猿助は大通連を飛ばそうとしていた鈴鹿を止めた。
「ちょちょちょ、オレの大事な仲間を殺さないって約束したじゃんかよ」
 格子から桃の手が伸び、猿助の頭をヘッドロックした。
「仲間じゃないだろ、てめぇは下僕だろうが!」
「姉貴……くるじ〜……そこから出すから……オレを離して!」
 そうしないと――睨みを効かせている鈴鹿の大通連と小通連が桃を殺す。
 察した雉丸は桃を羽交い締めにした。
「まあまあ、桃さん。出してくれると言っているんですから、サルを離してあげてくださいよ」
「ったく」
 舌打ちしながら桃は手から力を抜いた。
 へなへなと崩れ落ちる猿助。すぐに鈴鹿が抱きかかえた。
「なんて野蛮な人なのでしょう。大丈夫ですか猿助さま?」
「ぜんぜん平気……」
 でもなさそうな青い顔をしていた。しかし、ここで大丈夫と言っておかなければ、桃に危害が及ぶかも知れない。
 鈴鹿は牢屋の鍵を握りながら猿助に最後の確認をする。
「本当にこの方々を出してよろしいのですか?」
「オレらの婚約を一緒に祝って欲しいんだよ。だからみんなも変なマネしないでくれるよな、な!」
 お願いだから暴れないでくれ、という祈りを眼光に込めて猿助は桃たちを見た。
 鈴鹿はあまり気が進まない顔をしながらも、ゆっくりと牢屋の鍵を開けた。
 カチャッ!
 次の瞬間、桃が牢屋の扉を蹴飛ばして外に飛び出し、猿助を置いて逃げた!
「オレを置いてく気かよ!」
 叫ぶ猿助。
 雉丸のリボルバーから銃弾が放たれた。
 瞳を丸くする鈴鹿。
 銃弾は猿助と鈴鹿をつないでいた手錠の鎖を断ち切った。
「ナイス雉丸!」
 喜んで逃げる猿助に雉丸がポチを預けた。
「ポチを担いでさっさと行け!」
 ポチは幸せそうな顔をしてスヤスヤ寝ている。
 桃のあとを追ってかぐやとポチを担いだ猿助が逃げ、背後を雉丸が守りながら走った。
 まんまと婚約者に逃げられた鈴鹿はハッとし呟く。
「これが噂に聞くマリッジブルー!?」
 違います。
 桃たちは走り続け白石の敷かれた中庭に飛び出した。
 すぐあとを追って鈴鹿が現れる。
「ダーリンを返してくださいませ!」
 呼ばれたダーリンに視線が集中した。
「鬼となんか結婚したくねーよ!」
 桃の冷たい視線が猿助に向けられる。
「おいサル、いつあの小娘と婚約なんかしたんだい?」
「してないっつーの!」
 否定する猿助。すかさず鈴鹿が叫ぶ。
「嘘八百ですわ! 妾たちは愛し合っていますもの!」
 さらにすかさず猿助が反論。
「愛し合ってねーよ。そもそもオレはもう約束した人がいるんだい!」
「どこのどなたですかそれは!」
 瞳を丸くする鈴鹿に猿助が紹介した相手とは!
「ここにいる桃の姉貴だ!」
 これこそ嘘八百だった。
 桃のグーパンチが飛ぶ。
「てめぇ、そんな約束してないだろうが!」
 ぶっ飛ばされた猿助は大きく宙を舞って、池にドシャーンと落ちた。
 そんな約束なんてしてなくても、鈴鹿の敵意はすでに桃に向けられていた。
「ダーリンをその体で誘惑するなんて卑怯者! 妾が成敗してくれますわ!」
「返り討ちにしてやるよ、てめぇら手ぇ出すんじゃないよ!」
 桃は物干し竿を構えて鈴鹿に立ち向かった。
 かぐやは物陰に隠れて小声で応援。
「頑張れ鈴鹿御前さまーっ」
 雉丸は銃をしまってポチを抱きかかえた。
「桃さん、気をつけてください」
 下僕たちが見守る中、桃は物干し竿を大きく薙ぎ払った。
 それを高く飛翔してかわす鈴鹿。
「そんな乱暴な武術では妾を倒すことなど到底敵いませんわよ」
「柔は剛を制すとでもいいたいのかい!」
 豪快な桃の攻撃を風に舞う花びらのように、ひらりひらりと鈴鹿はかわし続ける。
 そして、ついに放たれた二振りの妖刀!
 烈風を起こしながら物干し竿が振り回され、左右から襲ってきた二振りの妖刀を弾いた。
 まさかという顔をする鈴鹿。
「たかが竹竿が妾の刀を!?」
「気合いが違うんだよ気合いが!」
 気合い――それはなんでも解決してくれる魔法の言葉♪
 気合いを入れれば、寒くても風邪を引かない!
 気合いを入れれば、焼け石の上を素足で歩ける!
 気合いを入れれば、物干し竿で刀を弾き返すのです!
 鉄扇を両手に構えた鈴鹿が優雅に舞いながら桃に襲いかかる。
 さらに二振りの妖刀までもが襲いかかって来るではないか!
 風を切り裂く鉄扇の舞。
 桃は紙一重で鉄扇をかわすが、背後からは小通連が心臓を狙っていた。
 すぐに桃は地面に伏せた。
 しかし、上空からは大通連が降ってくる。
 見守り続けていたかぐやがこっそりガッツポーズ。
 そして、雉丸が叫ぶ。
「桃さん!」
 リボルバーが抜かれた瞬間、桃は飛び上がりながら叫んだ。
「手ぇ出すんじゃないよ!」
 上空から降ってきた大通連は桃の真横をすり抜け、地面に深く突き刺さった。
 大通連はかわしたが、鈴鹿の追撃は怒濤のごとく続く。
「避けてばかりでは妾は倒せませんことよ!」
「うっさい!」
 威勢良く叫んだ桃の服を鉄扇が切り裂いた。
 ヤバイ、ポロリしそうだ!
 ただでさえ前全快で谷間丸見えなのに、破れた服で激しい動きをしたら……。
 構わず桃は激しい動きで猛攻撃を開始した。爆乳も大騒ぎだ。
 こっそり池の中から爆乳を見守る猿助。
 それに気づいた桃。
「どこ見てんだいサル!」
「オ、オレはどこも……」
 慌てて否定するが、鼻からはツーッと鼻血が垂れている。
 猿助に気を取られていた桃に鈴鹿が鉄扇が!
「よそ見は禁物ですわよ!」
「てめぇなんてよそ見してても倒せるよ!」
 桃は連撃された二枚の鉄扇をかわし、さらに飛んできた小通連を物干し竿ではじき返した。
 しかし……鈴鹿は静かに微笑した。
 桃は気づいた。
 地面に刺さっていた大通連が消えた!?