新説御伽草子~桃ねーちゃん!
刹那、桃の口から血の華が咲いた。
白い石庭に飛び散った鮮血。
猿助も雉丸も唖然として口から声すら出なかった。
かぐやは両手でガッツポーズ。
「かぐやは今このとき悪魔から解放されました!」
すぐに立ち直った雉丸が猿助に向かって叫ぶ。
「さっさと桃さんを運べ!」
そう言って雉丸はポチを脇に抱えて、さらにかぐやも脇に抱えて走り出した。
「なんでかぐやまで!」
かぐやは手足をばたつかせるが雉丸はまったく無視。
猿助は自分より大きな桃を背負って雉丸の後を追った。その背中で桃は苦しそうに言葉を吐いた。
「あの野郎……まだアタイは戦え……」
そのまま桃の声は小さく消えた。意識を失ってしまったようだ。
まさかこんなことが起こるなんて……。
桃も人間だ。しかし、猿助と雉丸には信じられなかった。絶対に負けないと信じていた。
猿助は歯を食いしばりながら走り続けた。
すぐ背後からは鈴鹿が追ってくる。
「逃がしませんわよ!」
真横をかすめる大通連と小通連の刃。
雉丸が前方に何かを見つけて叫ぶ。
「鬼の乗り物だ!」
流線型のフォルムをした乗り物。座席はあるが、車輪などはない。タイヤのないオープンカーだ。
かぐやとポチを抱えた雉丸が前の座席に飛び乗る。続いて乗った猿助は後部座席に桃を寝かせた。
座席に流れる血の雫。
傷は深い。一刻を争う事態だ。
ずっと安らかに寝ていたポチが目を覚ました。
「ふわぁ〜、よく寝たぁ」
そして、ポチの眼前をかすめた大通連。
「わっ!」
一気に目が覚めた。
「なに、どうしたの!? うわっ、姐御さん大けがしてるよ!!」
慌てるポチの座席を猿助が後ろから蹴っ飛ばした。
「さっさとこの乗り物動かせよ!」
「……えっ?」
目を丸くするポチ。
ポチが乗っていたのが運転席だったのだ。
鈴鹿はすぐそこまで来ていた。
焦りまくるポチ。
「ボ、ボク運転なんてできないよ!」
弱音を吐くポチの後部座席を再び猿助が蹴っ飛ばした。
「気合いでやれ、姉貴が死んでもいいのかよっ!」
でました気合い!
ポチは破れかぶれでハンドルを握ってアクセルを踏んだ。
――何も起こらない。
「ダーリンを返して!」
鈴鹿の投げた大通連がポチの首を刎ねんとする!
雉丸がポチの後頭部を掴んだ。
「危ないポチ!」
ゴツン!
雉丸に無理矢理頭を押し込められたポチはおでこを強打した。
その瞬間、モーターの駆動する音が響き、なんとエンジンがかかった。
しかも、アクセル踏みっぱなしだったのでいきなりの急発進。
レッツ激突!
いきなり塀に大激突したが、そのまま壁を突き破って爆走。
どうにか鈴鹿から逃げ切ったかと思ったが、なんと鈴鹿は大通連をスノーボードのように使って追って来るではないか!?
「ダーリンばかりか、妾の愛車?光輪車?まで奪うとは許しがたき所業!」
宙を低く浮かびながら走る光輪車。
紅い反り橋を飛ぶように越えた。そのとき、赤青黄色のナマモノを撥ねたような気がするけど、気にしな〜い!
てゆーか、ポチはそれどころではなかった。
「わっ、ぎゃーっ、無理だよぉ!」
叫びながらもどうにか運転できているのでオッケーさ!
雉丸のリボルバーが連続して火を噴いた。
小通連がすべての銃弾をはじき返す。あの妖刀がある限り、鈴鹿は鉄壁に守られているようなものだ。
猿助は懐から何かを取り出して投げた!
「くらえ火遁の術!」
目が眩む閃光が辺りを包んだ。
「しまった火遁じゃなくて、閃光だった!」
うっかりさん♪
しかし、その間違いが功を奏した。目を眩ませた鈴鹿がバランスを崩して大通連から落ちのだ。
地面を激しく転がる鈴鹿を尻目に光輪車は全速力で走り続けた。
作品名:新説御伽草子~桃ねーちゃん! 作家名:秋月あきら(秋月瑛)