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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 いきなりの求婚に戸惑う猿助。断るもなにも、首には大通連と小通連が刃を光らせ突き付けられていた。
 イエスと答えなければ首が飛ぶ。
 猿助は無言で小さくうなずいたのだった。
 それを見た鈴鹿はニッコリ笑って、天井から伸びていた紐を引っ張った。
 すると隣の部屋から悲鳴が!
 寛いでいた桃たちの足下に落とし穴が開き、見事に不意を突かれて罠にハマッた。
 落とし穴に真っ逆さま。
 残された猿助はガボーンと顎を外した。
 そして、鈴鹿はうっとりとした瞳で猿助を見つめていた。

 桃たちがどうなったのかわからない。
 ただ、今はこの状況を何とかしなければならなかった。
「待ってくださいませ猿助さま!」
 すっかり猿助にご執心の鈴鹿。
 屋敷の中をグルグルと追いかけっこしながら、早三時間の刻が流れようとしていた。
「待たねーよ、どうしてオレがお前と結婚しなきゃならねーんだよ!」
「だって貴方様は妾の唇を奪ったのですよ、ちゃんと責任取ってくださいませ!」
「なんでそのくらいで結婚しなきゃいけねーんだよ!」
「それくらいとはなんですか、妾のことは遊びだったのですかっ!」
「そーゆーことじゃないだろ!」
 ずっとこんな調子だった。
 ただ言い寄ってくるだけならいいのだが、言葉の他に刀まで飛んでくる。
 妖刀大通連と小通連が猿助を襲う。
 猿助は?つ?で大通連を避け、?大?ジャンプで小通連をかわしたが、そこに両手を広げた鈴鹿が飛びかかってきた。
「猿助さま大好きですわ!」
 飛びつかれた猿助はそのまま卍固めで拘束された。
「あいたたたた……」
「猿助さま、一生一緒にこの屋敷で二人きりで過ごしましょうね」
「イヤだ、オレは生涯独身を貫き通すんだ。世界中のねーちゃんたちと遊んで暮らすのがオレの夢なんだーっ!」
「目の前に妾がいながら、他の女の子とを考えちゃダメですわよ。猿助さまは妾だけを見てください」
 と、猿助は強引に頭を掴まれ、首を回され目と目を合わされた。
 間近で見る鈴鹿はさらに綺麗だ。その熟れた唇を見ていると思わず奪いたくなる。
 が!
「お前は鬼でオレはお前を退治にしにきたんだぞ、わかってんのか!」
「妾の何が不満なのですか!?」
「それは……」
 よ〜く考えてみるとないかもしれない。
 こんな美少女に言い寄られるなんて初体験だ。もう一生こんな出来事ないかもしれない。
 目の前の鈴鹿を取るか、それとも高嶺の花を追い続けるか……。
 決して鈴鹿が劣っているわけではない。ただ、猿助が追われるより、若いねーちゃんおケツを追っかけるほうが好きだったのだ。
「やっぱりダメだ、結婚なんかできねーよ!」
 腹を決めた猿助だったが――気づくと手錠で拘束されていた。
「なんじゃこりゃーっ!」
 しかも、もう片一方の手錠は鈴鹿の腕に。
「ペアリングですわね!」
 嬉しそうに鈴鹿はニッコリ笑った。
 思わずのその笑顔に負けそうになる猿助。
 だが、どうにかして逃げ……るもなにも、すでに妖刀二本が猿助の首を刎ね準備オッケーだった。
 まさに絶体絶命!
 観念した猿助は全身から力が抜けて畳にぺたんと尻をつけた。
「あははー」
 もう笑うしなかった。
 結婚は人生の墓場。そんな言葉が猿助の脳裏をよぎった。
 表面上は仲むつまじい仮面夫婦。
 腹の底で猿助はここから逃げ出すことだけを考えた。
 まずはこの手錠をどうにかしなかればならない。
 でもどうにもなりません!
 鈴鹿は猿助を引きずりながら歩きはじめた。
「屋敷の中を案内いたしますわ」
「…………」
 猿助は岩のように無言のまま。そんなちっぽけな抵抗など虚しく、やっぱりズルズル引きずられる。
 鈴鹿が襖を力強く開けた。
 その先に現れたのは紅白のふとん、しかもダブルサイズ。
「さあ、お布団の用意はできておりますわよ!」
「何する気だよ!」
「何って……決まってるではありませぬか」
 顔を赤らめモジモジする鈴鹿。
 猿助が叫ぶ。
「イヤだーっ!」
「今更嫌がることなど何も!」
 畳の上で犬かきをする猿助の腕を鈴鹿がグイグイ引っ張る。
 もしもこんな展開になってることが知れたら……桃に八つ裂きにされる!
 だって相手は退治する鬼。
 でも、猿助は考えた。
「バレなきゃいいんじゃないか?」
 呟いた猿助に鈴鹿は首をかしげた。
「何をバレなければいいのです?」
「いや……それは……でも……」
 いろいろな考えが渦巻く。
 其の一、桃が怖い。
 其の二、美少女が言い寄ってくるのに逃す手はない。
 其の三、でも、一人の女に縛られるなんてまっぴらごめんだ。
「オレはどうすりゃいいんだーっ!」
「妾と結ばれればいいのです!」
「ちょ、寝るにはまだ早いだろ。その前に風呂……はヤバイから、飯だ。オレは腹が減ってるんだ、飯にしろ、飯ッ!」
「そうですわね、まずは宴にいたしましょう」
 まずはこれで一安心。

 どこからか聴えてくる笛や太鼓のメロディーを耳にして、薄暗い牢屋にいる桃の不機嫌レベルがぐ〜んと上がった。
「ったく、なんだいなんだい、どっかで宴会でもやってのかい?」
 雉丸は銃のメンテナンスしながら桃に顔を向けた。
「俺たちを捕らえた宴ですかね」
「サルはどうした、サルは!」
「もしかしたら向こうに寝返ったのかもしれませんね」
 半分冗談のつもりだったが、まさか向こうではあんな状況になってるなんて、桃たちはまったく知らなかった。
 だって、猿助と鈴鹿が戦っている最中、のんきに四人は寛いでいたから!
 猿助が鈴鹿の唇を奪ったことや、責任を取らされて求婚されたことも知らない。
 だってのんきに寛いでたから!
 そして、気づけば牢屋に落とされていた。
 雉丸は縦横に線の入った格子に銃弾を撃ち込んだ。だが、金属音が響いただけで弾丸は床に落ちた。
「武器を取られなかったのは幸いでしたが、牢屋を壊せないのなら無意味ですね」
「ったく、アタイの物干し竿でもビクともしないよ」
 というか、物干し竿で牢屋を壊そうと試したことがスゴイ。
 床に這い蹲っていたかぐやがゆっくり顔を上げた。
「おなかすいたんだけどー?」
 雉丸に寄り添っていたポチもおなかをさすった。
「ボクもおなかすいたよぉ」
 二人のガキを桃は睨みつけた。
「てめぇら、さっき菓子食ってただろう!」
 食べたには食べたが、あれからずいぶんと時間が経ったような気がする。
 かぐやは格子に掴み掛かって、激しく揺さぶった。
「ひ〜ら〜け〜っ!」
 やっぱりまったくさっぱりビクともしない。
 物干し竿がかぐやをぶん殴った。
「うっさい、兎鍋にして喰うぞ!」
「痛いし! クソババアぶっ殺すぞ!」
 かぐやの紅い眼がさらに紅く血走っている。
 あぐらを掻いて座っていた桃は爆乳を揺らしながら力強く立ち上がった。
「おう、いつでも相手になってやるよ!」
 女と女の激しい争い。血肉の雨が降りそうな予感だ。
 が、その緊迫した空気に中、撃鉄を起こしたカツッという冷たい音が響いた。
「はいはい、そこまで。ポチが寝てるんだから、静かに」
 雉丸の向けた銃口はもちろん桃じゃなくてかぐやに向けられている。
 かぐやはショックで落ち込んで、床に四つんばいになった。