神社奇譚 0-1 土俵祭り
世話役の一声で少年達は集まり、蹲踞の姿勢をとり、暫し黙祷する。
少年達は勿論子どもではあるが、幼子ではない。
「おとなたち」が、してはいけないことをしていた。と聞かされても
それにはそれの理由があってのことかもしれない、と嘯くこともできる。
「和を以って尊しと為す」という我が国の国民性を、
身を以って感じ始めた年頃かもしれない。
そのことが時として、悪い結果を生む、ということを
生まれて初めて目の当たりにした出来事かもしれない。
これを例えば民族性とか文化という言葉を以って、
納得するにはおそらく相応の時間が必要だし
この期に及んで今迄同様の対応が許されるはずも無い。
ということを、全く知らないほど幼稚な歳ではない。
大相撲の八百長メール騒ぎが大きく報道されていたから。
相撲なんてさせない、と練習に参加しなかった子どもも少なくない。
そんなことも気にしながらか、普段は練習を見に来ない宮司も
今日は早朝稽古を朝から覗きに来ていた。
「君達の純真無垢な相撲への熱い想いが私には大変伝わった。
君達の精進こそが誇りであり、未来なのだ。
土俵の神々も、君達を誇りに思う事だろう。」
宮司の言葉に、世話役のひとりが涙目になって
なにも言葉も発しもしなかったが、元相撲部屋に居たという経歴を持つ
この大男に胸に去来するものもあったのかもしれない。
早朝練習を終えて土俵の上に立つ少年達が
昇る朝日に照らされて
土俵の神々に護られるが如く輝いて見えた。
作品名:神社奇譚 0-1 土俵祭り 作家名:平岩隆