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神社奇譚 0-1 土俵祭り

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私はひょんなことから近くの神社の役員となった。

昨日よりは暖かくなったとはいえ。
立春を過ぎたとはいえ。
早朝6時といえば、未だ暗く、吐く息も白い。
雪の降らない、だが乾燥しきったこの郊外の神社の境内に設けられた
土俵に少年達は静かに蹲踞の姿勢をとっていた。

褌一丁。
古来、力を掛けて男が闘う姿は、
なんらの武器を持たず
なんらの淀み濁るものが無いことを
敵味方に示すために。
一糸を纏うことすら避けてきた名残による。
洋の東西を問わず、その姿は神聖視されてきた。
そして日本では相撲道によってそれは残されてきた。

明治天皇に側近が日本古来の武士道がなくなるのを憂いたとき
「武士道は力士に継承させる」旨の発言があったとされるが
相撲神話と武士道を併せ持った伝統を力士は担う事となった。
相撲と神事についての関連性は様々に云われているが
詳しく知ることができなくとも、その張り詰めた空気は感じられる。

それを感ずる事が出来るのは土俵である。
土俵には神様がおられる。
大相撲の開催初日の前日には
神官を模した行司達による土俵の神々を奉る
神聖な儀式、土俵祭りが執り行われる。
場所前に設けられる土俵の中央に米、日本酒、塩、海産物などの
お供えを埋める。相撲三神を奉り、土俵を清める。

大相撲ほどの儀式ではないが年に一度この郊外の神社の土俵も
土俵祭りが行なわれ、土俵を清め、ここで闘う少年力士達の
安全と健康と精進を祈ってきた。
作品名:神社奇譚 0-1 土俵祭り 作家名:平岩隆