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千夜の夢

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27.神前百合子1





急に冷え込み出してからこっち、千笑さんの体調は思わしくなかった。それでも欠かさず上條家には足を運び、会う事は出来なくても温めのカフェオレを淹れてオレは帰る。そんな日々がもう2週間になろうとしている。



11月に入り、街路樹の葉も殆ど散り落ちて寒々とした幹を寒風にさらしていた。道端の枯れ葉がカラカラと風に舞い、冴の足元に忙しなく打ちつけてくる。

―今日は風が強いな。

一瞬秋空を仰ぎ、何事もなかったように視線を戻して再び歩き始める。行き慣れた道のいつもの角を左に曲がり、銀杏並木の通りに入る。まだ葉を落としていない銀杏の美しい山吹色に目を奪われ、周りへの注意を怠ってしまった。同じく銀杏の木を見上げながら歩いてきた小柄な女性の肩と、冴の腕が軽くぶつかった。

「っあ、すみませ・・・」

慌てて視線を落とし謝ろうとした。が、言葉が途切れて冴は固まる。同じくして慌てて銀杏から目を離し振り向いた女性が千笑と瓜二つの顔をしていたからだ。そんな事露知らず、女性が眉を下げた。

「ごめんなさいね、ボーッとしちゃって・・・、あ!」

ハッとしたように女性が後ろを振り返った。キョロキョロと辺りを見回し、短く溜息を吐く。

「やだ・・・、さっきの所左だった」

ブツブツと漏らしながら豪快に頭を掻いた。

―千笑さんはこんな事しないけど・・・似てる、ものすごく。

依然固まったまま自分を見ている少年を不審がるでもなく、女性はごく自然に尋ねた。

「君、宮元君だ?」

女性がニヤリと不敵に笑って見せた。もちろん驚いた冴はハッと我に返って焦点を合わせる。今までもボーッと顔のパーツやら薄茶色の綺麗な髪を見ていたが、その人物をパッと視界に入れてみると漂う雰囲気や表情の作り方がまるで千笑とは別であることに気づく。当然と言えば当然なのだが。

「・・・ど、どこかで?」

驚きを隠せないまま冴が尋ねると、心底楽しそうに笑って「初対面だけど?」と言った。益々困惑する冴をよそに、その女性は元来た方へ踵を返し颯爽と歩き出した。

「何やってんの?早く行こうよ」

少しだけ振り返って言うと、それきり後ろを気にする様子もなくどんどん進んで行ってしまった。

―・・・わけが分からない。え?あ、もしかして千笑さんの親戚?でもなんでオレの事知ってるかな。てか、あれ?初対面って言ってたじゃん。あれ?

一人悶々としているうちに、彼の人はもう曲がり角を右に入ろうとしていた。とりあえず方向も(恐らく目的地も) 一緒なので冴は追う事にして慌てて駆け出した。やはり目指していた場所は上條家だった。裏のエントランスに着くと、彼女は携帯を取り出しどこかに電話を掛け出した。

「・・・あ、やだ。あの子ったら電源切ってる。中に入れないじゃない!」

文句を垂れて通話を切る。

「舞ったなあ。お屋敷の方に回るかあ・・・。あ〜!すげーヤダ」

―信じがたいがやっぱり親戚・・・あ、妹が居るって言ってたな。妹?この人があの人の妹?顔は似てるし美人の類だ。でも姉妹?いやー・・・。

「あの、」

「なに?」

「オレ、知ってます。解除キー・・・」

恐る恐る片手を上げる。出会ったばかりだが冴はこの手のタイプが苦手である事を自覚していたので自然と弱気な態度になる。なぜならば自分の母や姉、妹と重なるからだ。すなわち宮元家の女性陣が冴は苦手だった。

「え?!知ってるの宮元!!」

―もう宮元呼ばわりか。

図々しいのにどこか憎めない愛嬌のある人柄。こんな所が冴が苦手とする要因だ。

「はい。毎月新しいナンバーを士から聞いてますから」

「暗記してんの?すごいね」

「覚えるの得意だから」と危なげなくナンバーを叩く。カチッと小さな音がドアから響き、ロックが外れた事を教える。ドアノブに手をかけガチャリと重々しい音を響かせ分厚い金属の扉を開く。先に入るよう促そうと振り返ると、彼女は眉をひそめ苦しそうな表情でドアの奥を睨んでいた。

―・・・同じだ、オレがここを開く時と同じ顔をしてる。

「あの、お・・・」

「ん?」

「オレ、宮元冴です。知ってるみたいでしたけど・・・一応」

「ああ」と何かを察したように彼女は固い表情を解し笑った。冴は頭の隅でその笑顔に千笑の姿を重ねていた。

「私、神前百合子。千笑の妹で、都内の大学病院で外科医をしてます」

百合子は悪戯っぽく微笑んで右手を差し出し、「よろしく!」と半ば強引に冴の手を取り振り回した。冴は振り回されるままに体をぐらぐらと揺らした。

―神前姉妹、か。



この時百合子さんに苦手意識を持ったのは浅はかだったとしか言えないけど、オレはすぐにその考えを改める事になるんだ。 やっぱり姉妹なんだな、って。




作品名:千夜の夢 作家名:映児