千夜の夢
―待て待て・・・何恥ずかしいセリフ言っちゃってんのオレ・・・軽く死にたい・・・。
「・・・は、恥ずかしくないんですか?」
真剣な顔で千笑が問いかける。
「恥ずかしいよ!!なにも追い打ちかけることないでしょ!」
向かい合っていた体を反対に向け、「もう絶対こんな事いわないからね!」とブツブツ文句を零す冴を、千笑は後ろからそっと抱きしめた。その体は小刻みに震えていて、声に出すまいと必死で堪える笑みを冴に気付かせた。
「何笑ってんの・・・本当もう2度と言わない!」
「ふ、そんな事言わないで下さい。私、すごく嬉しかったんですから」
そう言いながらいつまでも小さく笑い続ける千笑が、憎くも愛しくてしょうがなくて。回された小さな手をそっと包み、ちょっと不機嫌そうにポツリと言った。
「あなたが好きだよ」
思えばそれが、初めての告白。
※アンドレア・シュッツ・・・イタリアのクレモナに工房を持つ実在のヴァイオリン職人
今回登場したヴァイオリンはどえらく高価な代物です。無造作に壁に掛かっているなんて事はないんじゃないかと思います。作者は楽器には疎い小市民ですので「これはおかしいだろう」と思ってもお優しい心をもって消化して下さると嬉しいです。