千夜の夢
<・・・兄貴と姉ちゃんと三人だけど・・・何?>
やはりここには居ない。微かな希望はあっさりと打ち消された。千笑がどこへ行くかなんて他に見当もつかない。士はふいに叫びだしたい衝動に駆られる。
「・・・ッ千笑ちゃんが、どこにも居ないんだ」
搾り出すように言った刹那、一瞬の空白をおいて耳元で大きな音が弾むと、おそらく冴が遠ざかっていく音が消えていった。繋がったままの携帯を折り畳み握り締める。まるで世界中にたった独りきりになってしまったようで、歩き方も分からなくなった。
今まで呼吸をしていたのも、この目に光が射していたのもみんなあなたが傍に居てくれたから。あなたが離れて初めて知る、自分の不甲斐無さと弱さ―。