千夜の夢
ストレートに不満を訴える冴を本当に可笑しそうに見て身を震わせて笑った。
「ゴメンナサイ。お詫びになんでもしちゃいます」
まだ笑ったままの千笑を黙らせようと両脇から抱え上げる。
「じゃあ・・・呼んで、名前」
真剣な面持ちで抱き上げた千笑を膝に乗せ、真っ直ぐに見つめる。その直向な眼差しに千笑はいつも負けてしまう。
「さ、冴さ、」
「ストップ」
千笑の口を覆いしばらく黙ってそのまま見つめ合う。そしてゆっくりと手を外し、再び千笑の背中に手を添えた。
「“冴”だけで、もう一度」
冴の求めることを理解した千笑は一瞬頬を染めて黙ってしまったが、なんとか顔を上げて口を開く。
「・・・・・・サエ」
「カタカナ読みだ」
ふ、と柔らかな笑みを零す。その笑顔に絆されるようにして続けてもう一度名を呼ぶ。
「冴」
「うん」
「―冴」
「ん、合格」
満足気に頷いて、ぎゅっと千笑を抱きしめる。
「あなたは誰よりも最高だよ。それが、オレがあなたを選んだ理由」
赤くなった顔を見られないように、抱きしめる腕に一層力を込めた。それに応えるように回された腕の温もりに、酔ってしまわぬよう冴は必死だった。
その後あなたはオレにも名前を呼び捨てるように頼んだけど、オレはそれを受け入れなかった。文句を零すあなたにオレが言った言葉は・・・。
―“だってこの恋愛はフェアなんかじゃないんだよ?少し位我侭聞いてよね”。
もちろんあなたはすごく怒ったっけ。