サイコシリアル [3]
「あは。威勢がいいわね、涙雫君」
霞ヶ窪は、手にしていたナイフを右胸の前へと構えなおした。
そして、一閃。
横薙ぎに放たれたナイフは、僕の右頬より少し下。つまりは、人間の急所、首へと一直線に向かってきた。もちろん、ナイフを開始しなくては首筋に金属製のカウンターを食らい、僕は絶命するだろう。
普通であれば、の話だけれど。
僕の場合は違う。意味合いが違う。僕は決して避けなどしない。
引きつけるのだ。死のギリギリまで、絶命する一歩手前までナイフを首筋に引きつける。
このギリギリの死ぬか生きるかの状況が更に僕の思考速度を跳ね上げていく。回転数にしたら相当数だろう。車のエンジンだって僕には敵いやしない。
理解力とはすなわち、思考の速さなのだから。
思考の速さとは、予想の速さなのだから。
霞ヶ窪が放ったナイフが僕の首筋を捕らえる寸前、僕はそのナイフを避けた。華麗にも的確なタイミングで。まぁ、当然だ。僕が駆け出した理由の一つでもあるし。僕は、霞ヶ窪がナイフを放った瞬間に一歩大きく踏み込んでいたのだ。さながら、相手のボディーを狙うインファイターのように。原理は一緒だ。引きつけて潜り込む。
僕が霞ヶ窪の懐に潜り込んだのと同時。霞ヶ窪の唇が、ほんの数ミリ釣り上ったのが見えた。そして、予測した。これは予想された僕の動きなのだと。
確かに、セオリー通りの動きをしてしまった僕に非があるのだけれど。
しかしこれも想定内。僕自身これで終わりだと思っていない。
僕は、次に来る攻撃が下からの突きだと一瞬で答えを導き出した、というよりも霞ヶ窪が僕に横薙ぎにナイフを放った時点で仮定はしていた。
霞ヶ窪の横薙ぎの攻撃は、決して真横ではなかったから。数センチほど、僕から見て斜め左下に向けて放っていたからだ。そして、ナイフの勢い、体の流れからして全力の一撃ではなかった。これは、殺人術のように次に繋がる攻撃にする為と推測したのだ。
作品名:サイコシリアル [3] 作家名:たし