サイコシリアル [3]
「それはそうと、九紫。何故、九紫の兄は戯贈の両親を殺したんだ?」
九紫の兄の口癖『人が人に殺される理由はないが、人が人を殺す理由はある』という概念を引用させてもらえば、九紫の兄にはそれ相応の理由があったはずだ。
そして、この概念の奥には、人が殺される理由はない、つまりは殺される理由に気づいていない、という意味も含まれているのだろう。
僕にはそう感じる。
「分かりません。人が人を殺す理由は、その人にしか分からないのですから。ただ、私は兄のことを調べていただけで、何故殺したのかまでには至っていません」
「それじゃ、何故殺したか、以外のことは分かっているのでしょう?」
戯贈は的確に九紫に突っ込んだ。
九紫の言葉からすれば、そういうことになる。
「まだ、分かった、と言えませんが、仮定は出来ました」
「仮定?」
僕は九紫を促した。
「はい、仮定です。私の兄、戌亥が犯人であるという仮定」
それから九紫は、自分の記憶を手繰りよそるように、繋ぎ合わせるように、ゆっくりと話始めた。
「まず、戯贈先輩が両親殺しにあい、殺し屋となった約一年前。ちょうど、その時期に兄は行方を眩ましました。元々、兄は自由奔放な人でしたので、気にはしなかったんですけど。なかなか帰って来ないので、数日経ってから父に聞いたんですよ。『兄は何処へ行ったんですか?』と。そしたら、父は言いました。『戌亥は、いなくなったんじゃない。追放したんだ』と。これが、第一の疑問でした」
追放。
つまりは兄の意思とは無縁の行動なのだろうか。
「でも、おかしいと思ったんですよ。何故、一族に忠誠を誓っていた兄が追放されるか」
忠誠を誓いながらも追放される。
答えは一つしかないだろう。
誰でもこの結論に辿り着くことが出来る。
「やってはならない事。つまりは禁忌を犯した」
組織内の禁忌。
仲間殺し、そんなところだろうか。
作品名:サイコシリアル [3] 作家名:たし