サイコシリアル [3]
「あら、涙雫君は知らないの? 戯贈さんが抱える闇が、過去とも呼べるわね」
霞ヶ窪の口からは、少し予想外の言葉が返ってきた。そして、想定外でもある。
霞ヶ窪は戯贈の過去を知っているのか。
二人の関係はそれほど密接だったのだろうか。
情報が少なすぎる。統合が出来ない。
「戯贈の過去だと?」
この場合は、そんなの気にしない、とでも続けるのが良かったのかもしれない。気にしないと言って、違う流れに誘導し終わらせる。しかし、これは最良の策であっても、最善の結果が得られるとは限らない。
僕は単純明快、戯贈の過去というものが気になってしまったのだ。
我ながら情けない。
「何故、戯贈さんには行動力が欠けているのか、考えた事はないの?」
「病気じゃないのか?」
僕は出会った当初そう聞いた。
「原因不明の病。筋肉細胞が破壊と蘇生を繰り返している」
と。
「あなたは馬鹿なのね。本当に美しくないわ。そんな病気あるわけないじゃない。破壊と蘇生? オカルトの領域よ、それは。筋肉細胞が破壊されている病気は確かにあるけど、破壊と蘇生ですって? 笑っちゃうわ、そんなの信じるなんて。もし、仮にそういう病気があったとしても、絶対に激痛で体を動かすことは出来ないわね」
「それじゃ・・・・・・何故なんだ」
確かに霞ヶ窪の言うことは一理ある。
しかし、だからこその原因不明なんじゃないのか。原因不明だからこそオカルト染みてるんじゃないのか。
「戯贈さんはね、身体的疾患なんかじゃない。精神的疾患よ」
「精神的疾患・・・・・・?」
「人の闇を光に当てるのは気持ちがいいわね」
ここで僕は二つの事に気づいた。
一つ目は、霞ヶ窪に主導権を握られているということ。完全に手のひらの上で転がされている。何故、戯贈を狙うか、という問いからいつしか戯贈の過去を聞いている、というこの現状がそれを物語っている。
そして、二つ目。
戯贈の闇、過去、精神的疾患を暴くということは、戯贈の心的外傷、俗に言うトラウマを暴くということだ。そして、それを霞ヶ窪は知っている。
トラウマとは傷だ。心に深く刻まれた、どうしようもない傷。克服することがあろうとも癒えることはない傷。
それを暴く。つまり抉る。戯贈の傷を抉るということだ。
「丁度、二年くらい前かしらね。戯贈さんの親は、殺された。惨めにも戯贈さんの目の前で。私が食べたかったのに、先を越されたのよ」
やめろ。
作品名:サイコシリアル [3] 作家名:たし